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  3. 北前船(きたまえぶね)の富を生んだ島 ――利尻島・知られざるレガシー巡礼 【中編】
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2026.08.24
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北前船(きたまえぶね)の富を生んだ島
――利尻島・知られざるレガシー巡礼 【中編】

かつて、天下の台所・大阪の人々は、主に日本海航路で北海道と大阪を結ぶ
商船や船乗りたちを「北前」と呼んだ。
北海の荒波を越えてきた船は、ひときわ雄々しく見えたに違いない。
大きな富をもたらした北前船の交易。
北海道からの荷の多くを占めたのは、畑作の肥料となる鰊粕(にしんかす)だった。
北前船の富を生んだ利尻島を訪ねると、想像を超えるレガシーに出合えた。

文:北室かず子/写真:田渕立幸

船絵馬の祈り

北前船の痕跡を求めて、まずは利尻大権現本泊(もとどまり)頓宮(とんぐう)へ行ってみた。社を囲む木々の幹や枝は曲がりくねって絡み合っている。冬の強烈な寒風に耐える術なのか。鎮守の森の姿にも、離島の風土がにじみ出る。瀬戸内から運ばれてきたのか、御影石の鳥居には天保9年(1838)の文字が刻まれ、その奥には天保10年の石灯篭もあった。北前船のレガシーだ。

利尻大権現本泊頓宮と御影石の鳥居。寄進者は、リイシリ場所請負人である近江商人・藤野四郎兵衛(又十柏屋)の下で采配にあたった阿部喜右衛門。現在は本泊神社の通称で呼ばれている。
石灯篭に刻まれた寄進者の名は「柏屋船頭中」。 柏屋ということは、こちらも場所請負人の近江商人・藤野四郎兵衛(又十柏屋)に雇われた船頭だろうか。

北前船を描いた船絵馬が奉納されていたのが、石崎神社や沼浦神社だ。大海原を航海する北前船の船頭も、前浜で漁にいそしむ島の漁民も、願いは無事に還ること。船絵馬が華麗で勇壮であるほど、込められた祈りは切ない。

利尻富士町鬼脇石崎地区の方々が守っている石崎神社。
石崎神社に奉納されていた船絵馬。利尻島郷土資料館に展示。
利尻富士町鬼脇沼浦地区の方々が守っている沼浦神社。
沼浦神社に奉納されていた船絵馬は、絵ではなく写真だ。明治31年に福井県敦賀町で製造された洋式帆船が写っている。利尻島郷土資料館に展示。
こちらも沼浦神社に奉納されていたもの。利尻島郷土資料館に展示。
沼浦神社の装飾。

江戸時代、松前藩の方針で蝦夷地の産物の取引ができたのは江差湊(みなと)、福山湊、箱館湊の三湊のみだった。「これが北前船の寄港地は三湊だけという認識につながりやすいのですが、近年の研究では、北前船は、よく紹介される北陸の船主だけでなく、場所請負人の手船(てぶね、自前の船の意味)交易の形でも担われていたことが指摘されています」と語るのは、小樽商科大学客員研究員で、北前船日本遺産推進協議会遺産価値創造プロデューサーも務める高野宏康(たかの ひろやす)さんだ。「現在の北方領土やカムチャツカ半島周辺等は、高田屋嘉兵衛(たかたや かへえ)によって開拓されており、より広い視野で北前船を捉える視点が必要です。また、北前船の活動は、江戸時代だけでなく、明治時代になるとより北海道との関わりが深くなり、会社設立などさまざまな影響を与えています」。

高野さんは北前船の船主集落で有名な石川県加賀市橋立の出身。高祖父まで代々、北前船の船乗りだった。今夏は台湾で開かれた国際フォーラム「北前船と台湾の海洋文化資産」で北前船の再定義について基調講演を行った。高野さんが運営するコミュニティスペース&カフェ「レールウェイ」(小樽市)にて。

松前藩は蝦夷地をいくつかの場所に区分し、経営を場所請負人に請け負わせた。場所請負人は運上金を藩に納めることで、場所で漁業を行ったり、アイヌとの交易ができた。場所請負人には三湊の商人がなった。場所の漁獲物は三湊に運び、北前船などに販売した。

ただし、近江商人や江戸商人など、本州などに拠点を持ち、三湊に支店を置いて大規模に場所請負を行った商人たちは、自らの手船で北海道の産物を直接本州などに運んでいた。道東・道北一円で大規模に場所経営を行った近江商人の藤野四郎兵衛(ふじの しろうべえ)などだ。彼らは、生産・輸送・販売を一貫して行っていた。江戸時代、生産(漁場経営)は場所請負人に限られていたが、輸送・販売を担ったことは北陸の北前船主たちと同じである。高野さんいわく「従来、場所請負人の活動と北前船の関係は不明確でしたが、近年の研究では、北前船の一形態として把握する考え方が出されています(※)。北海道と各地をつないだ北前船の本質は、江戸時代(近世)と明治時代(近代)を含めて考えることで見えてきます」。

※中西聡『北前船の近代史 海の豪商たちが遺したもの(3訂増補版)』(成山堂書店、2023年)

利尻島の本泊港に停泊する和船は弁財船(べざいせん)と呼ばれるタイプ。弁財船は江戸時代後期から明治時代にかけて、北前船交易で最も使われた船である。利尻島郷土資料館所蔵

北前船最盛期と鰊

北前船が最盛期を迎えたのは、明治10~20年代、つまり近代初期である。大きな理由は2つある。北海道開拓の開始によって人口が急増し、人とモノの動きが盛んになったこと。そして、本州、四国で魚肥の需要が増加し、鰊粕の生産が急増したことである。高野さんいわく「明治になって場所請負制がなくなったので北陸の北前船主など、場所請負人ではなかった船主たちも漁場経営を手がけ、やがて営業倉庫や銀行経営など、多角的に事業を展開していきました。小樽の倉庫群は、明治20年代以降に建造されたもので、近代的な北前船遺産といえます。明治以降、北前船主たちは、和船や西洋型帆船など、さまざまな船を所有し、多角経営を行っていました。北前船の核心は、近世から近代にかけて、北海道・東北・北陸・山陰など、日本海沿岸諸地域を結んだ社会・経済・文化のネットワークを担ったことにあります。一時、『裏日本』と呼ばれるなど、現在では見失われてしまったこの地域をつないだ『海の道』が果たした歴史的意義を再発見するために、北前船という視点がすごく大事になってくると考えています」。

【後編】では、北前船の富の源泉であった鰊漁の痕跡を求めて、利尻島南西部の利尻町へ向かう。そこにはなんと、袋澗が数珠のように連なっていたのである。

Information

利尻島郷土資料館

住所利尻富士町鬼脇字鬼脇257
Google Map
電話番号0163-83-1620
開館時間5月1日~10月31日の9:00~17:00(最終入館 16:30) 
休館日11月1日~4月30日、5・6・9・10月の火曜日(祝日の場合は翌日休)、祝日の翌日
※7・8月は無休
入館料一般300円、中学生・身障者100円、小学生50円
アクセス宗谷バス「鬼脇」停留所下車、徒歩約3分
関連リンクhttps://hokkaido-digital-museum.jp/facility/rishiri-historical-museum/
https://www.rishiri-plus.jp/shima-place/kyoudo-siryoukan/

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

Information

利尻大権現本泊頓宮(本泊神社)

住所利尻富士町鴛泊字本泊
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石崎神社

住所利尻富士町鬼脇
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沼浦神社

住所利尻富士町鬼脇字沼浦
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※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

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