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  3. 北前船(きたまえぶね)の富を生んだ島 ――利尻島・知られざるレガシー巡礼 【前編】
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2026.08.03
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北前船(きたまえぶね)の富を生んだ島
――利尻島・知られざるレガシー巡礼 【前編】

かつて、天下の台所・大阪の人々は、主に日本海航路で北海道と大阪を結ぶ
商船や船乗りたちを「北前」と呼んだ。
北海の荒波を越えてきた船は、ひときわ雄々しく見えたに違いない。
大きな富をもたらした北前船の交易。
北海道からの荷の多くを占めたのは、畑作の肥料となる鰊粕(にしんかす)だった。
北前船の富を生んだ利尻島を訪ねると、想像を超えるレガシーに出合えた。

文:北室かず子/写真:田渕立幸

袋澗ってなに?

札幌発の特急「宗谷」は、地球の緯度にして2度分を北上し稚内に至る。遠大な旅の最後、晴れていれば車窓の日本海に利尻島が浮かび上がる。これ以上に完璧なランドマークがあろうか。いにしえの船乗りたちも、利尻山を目印に荒海を進んだことだろう。

稚内からフェリーに乗り換え、利尻島の鴛泊(おしどまり)港に上陸。北緯45度10分に位置する島の爽快な空気を胸いっぱいに吸い込む。ペシ岬の向こう側に、石積みの堤に守られた船だまりがあった。「泉(いずみ)の袋澗(ふくろま)」だ。透き通った水底で利尻昆布が揺れている。潮の香りが濃い。振り返ると、利尻山が神々しい姿でそびえ立っている。

利尻富士町鴛泊にある「泉の袋澗」。右に利尻山、左にペシ岬が見える。

袋澗とは、鰊漁の盛んだった時代、建網(たてあみ)にかかった鰊を一時的に保管する目的で造られたもの。利尻町立博物館 元学芸員の西谷榮治(にしや えいじ)さんはこう語る。「鰊の漁期は春で、島は北東の強風が吹いて非常に海が荒れます。そこで、網にかかった鰊をまずは袋澗に入れることで、穏やかな袋澗の中で安全な陸揚げ作業ができるのです。袋澗は鰊漁そのものを支える知恵なんですよ」。

長年、利尻島の歴史文化を探究してきた西谷さん。今夏は17世紀に朝鮮半島から利尻島に漂着した人物についての研究発表を韓国で行った。利尻島は海を通して今も昔も世界につながっている。西谷さんの後ろの海面は「小倉の袋澗」。青森県今別町出身の小倉家が利尻町で鰊建網漁を営んだ。

こうした漁業の遺産は、平成30年(2018)、「利尻島の漁業遺産群と生活文化」として北海道遺産に認定された。この後、島を巡りながら、筆者は今も残る袋澗のバリエーションに仰天することになる。

1航海1億の富

まずは島のレンタカーで利尻島郷土資料館へ。資料館は大正時代に旧鬼脇(おにわき)村役場として建てられた洋館だ。

ハイカラで愛らしい利尻島郷土資料館。雄々しい利尻山とのコントラストは絵のような美しさ。

館内で真っ先に目に飛び込んできたのは、鰊漁の船が港を埋め尽くす写真だ。利尻富士町教育委員会次長で学芸員の山谷文人(やまや ふみと)さんいわく「周囲約60㎞の利尻島に、およそ300もの鰊漁場がありました。袋澗(もしくは澗)も、30~35カ所もあったんです」。すさまじい数である。

鰊漁の漁船で埋め尽くされた昭和25年頃の鬼脇港。利尻富士町教育委員会所蔵。
昭和6年(1931)の鰊定置漁場。島の周囲にびっしりと漁場がひしめいている。「北海道開拓記念館調査報告第24号」(山田健、1985年)より転載。
東京で生まれ育った山谷さんだが、ルーツは北海道。小樽でオタモイ海岸の龍宮閣や旧魁陽亭を施工した山谷建築店の子孫だ。利尻島郷土資料館にて。

水揚げされた鰊の大半は鰊粕に加工された。鰊粕とは、鰊を煮て搾り、発酵・乾燥させたものである。江戸時代、西日本で盛んになった綿花や菜種、藍の栽培には多くの肥料が必要で、農民は効力の高い鰊粕を喉から手が出るほど欲した。それを運んだのが北前船だった。

鰊を煮て鰊粕を作る。鴛泊荒田漁場にて。中田為吉撮影。利尻富士町教育委員会所蔵

北前船とは、江戸時代中期から明治30年代まで、大阪と北海道を主に日本海廻りで往来した商船の総称である。物流が未発達だった当時、船主は地域による価格差に着目して、ある港で商品を買い入れ、別の港に運んで販売する買積(かいづみ)経営を行うことが多かった。難破などの損害は被るが、うまくいけば儲けは大きく、1航海で現代の貨幣価値にして1億円以上の利益が出たとされる。

旭浜神社に奉納されていた船絵馬。利尻島郷土資料館に展示(複製)されている。利尻富士町教育委員会所蔵

「道北の北前船の航跡については、まだあまりスポットライトが当たっていません。しかし島内に北前船ゆかりのものはたくさんあります。安全航海を願って神社に奉納された船絵馬(ふなえま)、本州の寄港地から持ち込まれた酢徳利(すどっくり)や漆器、陶磁器などを館内でご覧いただけます。神社の灯篭(とうろう)や狛犬(こまいぬ)も北前船でもたらされました。一方、利尻島からは鰊粕をはじめ昆布、中国への輸出品になる干した海鼠(なまこ)や鮑(あわび)が積み出されました」。

瀬戸内海沿岸の尾道(おのみち)で生産された酢を詰め、北海道へ運ぶための酢徳利。利尻島郷土資料館に展示。
輪島塗を中心とする漆器。利尻島郷土資料館に展示。
高級感あふれる九谷焼も、もたらされた。左から、四方(しほう)徳利と金彩盃(きんさいさかずき)。利尻島郷土資料館に展示。

【中編】では、島を巡って知られざるレガシーを訪ねよう。

Information

利尻島郷土資料館

住所利尻富士町鬼脇字鬼脇257
Google Map
電話番号0163-83-1620
開館時間5月1日~10月31日の9:00~17:00(最終入館 16:30) 
休館日11月1日~4月30日、5・6・9・10月の火曜日(祝日の場合は翌日休)、祝日の翌日
※7・8月は無休
入館料一般300円、中学生・身障者100円、小学生50円
アクセス宗谷バス「鬼脇」停留所下車、徒歩約3分
関連リンクhttps://hokkaido-digital-museum.jp/facility/rishiri-historical-museum/
https://www.rishiri-plus.jp/shima-place/kyoudo-siryoukan/

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

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