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  3. 十勝岳と生きる ――泥流からの復興100年【前編】
  • 北海道ヒストリア

2026.06.01
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十勝岳と生きる
――泥流からの復興100年【前編】

波打つ丘、作物の種類によって色分けされたパッチワークのような畑…。
美しい田園風景から想像するのは難しいが、
上富良野(かみふらの)町と美瑛(びえい)町は、
100年前に起きた十勝岳(とかちだけ)噴火による泥流(でいりゅう)の被災地である。
苦難を乗り越えて復興した地に、ラベンダーが咲き、「白金(しろがね)青い池」が輝く。
悠久の歴史の中で絡み合う火山と人の物語をたどってみよう。

文:北室かず子/写真:田渕立幸

残るか、去るか

大正15年(1926年)5月24日、十勝岳が噴火した。爆発の衝撃が山体崩壊を起こし、熱い崩落物と熱水に解かされた雪が、火山灰や土砂、木々を抱え込んで流れ下った。泥流である。上富良野村(当時)、美瑛村(同)合わせて死者・行方不明者144人にも上った。

泥流の流路となった富良野川から人力で流木を引き上げる。泥流は時速60㎞もの速度で流れ下り、2mの深さに泥が堆積したところもあった。写真提供=上富良野町教育委員会

作家・三浦綾子(みうら あやこ)は、この大災害を小説『泥流地帯』『続・泥流地帯』に描き出した。

丈余の泥流が、釜の中の湯のように沸(たぎ)り、躍り、狂い、山裾の木を根こそぎ抉(えぐ)る。バリバリと音を立てて、木々が次々に濁流の中に落ち込んでいく。樹皮も枝も剥がし取られた何百何千の木が、とんぼ返りを打って上から流されてくる。と、瞬時に泥流は二丈三丈とせり上がって山合(やまあい)を埋め尽くす。家が流れる。馬が流れる。鶏が流れる。人が浮き沈む。(中略)恐怖も、驚愕も、悲嘆も、余りに突如であり、余りに大きすぎた。すべての神経が麻痺(まひ)したような感じだった。                              ――三浦綾子『泥流地帯』より

執筆にあたって三浦は体験者からじかに聞き取り、文字に刻み込んだ。丹念な取材は、泥流の動きを解明する研究材料にもなったという。

明治30年(1897年)から開墾を始めて30年。鬱蒼(うっそう)たる森を切り開き、ようやく目鼻がついた時の被災だった。田畑は厚い泥に覆われてしまった。火山由来の硫黄を含んだ、作物の育たない死の泥だ。この地に残るか、去るか。村人は厳しい決断を迫られた。被災の程度には差があり、分断も起こった。

そうした史実に触れられるのが、上富良野町郷土館だ。同町教育委員会の佐藤根祥太(さとね しょうた)さんはこう語る。「吉田貞次郎(よしだ ていじろう)村長は、石にかじりついてでも復興しようと説き、国や道から予算を得ることができました。一方で村長への誹謗(ひぼう)中傷が流れ、裁判にもなったのです。なぜ農家のために村が負債を負わなければならないのかという声も起こりました」。葛藤は深かった。

モダンな大正建築の旧上富良野村役場をモデルに、昭和53年(1978年)に開館した上富良野町郷土館。十勝岳ジオパークの拠点施設でもある。
泥流を免れた倉庫に北海道庁、上川支庁、吉田村長(立って発言している人物)や村議会議員等の村行政関係者、富良野警察署長、上富良野郵便局長、その他関係者らが集まり、俵に腰かけて復興事業等の意見交換を行った「公職者協議会」の写真。上富良野町郷土館に展示。
分断を物語る上富良野起債反対同盟会のビラ。上富良野町郷土館に展示。

2度目の開拓

父祖の汗がしみ込んだ田畑を捨てはしない――。そう決意して動き出しても、重機のない時代、人力で流木や岩を取り除くのは気の遠くなるような作業だっただろう。硫黄で強い酸性になってしまった土壌に作物は育たたないため、トロッコで土を運び、客土を続けた。

山から泥流に流されてきた巨岩は十勝岳爆発記念碑として保存され、泥流の威力を証言している。
こちらの巨岩も歴史を伝えるモニュメントになっている。

佐藤根さんいわく「吉田村長は責任感とリーダーシップにあふれた高潔な方だったのだろうと思います。泥流に飲み込まれたのは日新(にっしん)地区や草分(くさわけ)地区で、地名からもわかるように開拓の最初期にできた集落でした。開拓魂を持っている人たちの土地だからこそ、復興への思いはなお強かったと思います」。村長の住宅は草分地区から移築され、上富良野町開拓記念館になっている。

吉田村長は泥流で母を亡くしたが、家は奇跡的に被害を免れて移築され、上富良野町開拓記念館として公開されている。
泥流で流れてきた木。上富良野町開拓記念館にて。
上富良野町開拓記念館の前に建立された吉田村長の胸像。

「泥流被害からの復興は明治時代の開拓に続く『2度目の開拓』と表現される苦難でした。復興を成し遂げた人々の思いの上に、今の上富良野町があることを伝えていきたい」と、佐藤根さんは語る。美しい田園風景は、幾多の苦難に立ち向かった人々の努力の上に成り立っているのだ。現在、上富良野町を中心に、『泥流地帯』『続・泥流地帯』の映画化をめざしてプロジェクトが動き出している。

地域の良さを伝え、防災の取り組みを進めることが任務と語る佐藤根さん。

こうした歴史を背負う地域が、令和4年(2022年)、十勝岳ジオパークに認定された。火山活動が織りなす自然環境景観を保全し、魅力を発信し、火山と共生する地域づくりを進めている。その柱の一つ、ジオツアーでは十勝岳ジオパーク推進協議会が認定したガイドが多彩なコースを案内してくれる。

十勝岳の望岳台(ぼうがくだい)周辺で噴火の痕跡を見るジオツアー。他に、火山と共生する動植物を森に訪ねたり、小説『泥流地帯』『続・泥流地帯』の舞台を巡るなど多彩なコースがある。写真は6月下旬。写真提供=十勝岳ジオパーク推進協議会

十勝岳ジオパーク推進協議会事務局長の長野克哉(ながの かつや)さんは、「十勝岳噴火はたいへんな被害をもたらしましたが、そもそも丘の風景自体、火山が生んだものなのです。十勝岳ができるはるか昔の大規模噴火による火砕流が堆積し、それが雨風で浸食を受けたことで、波打つような丘の地形が生まれたのです」と言う。

国内外から年間200万人以上が訪れる美瑛町で、ジオパークの視点から魅力を発信する長野さん。

苦難をもたらした火山が風景の生みの親とは、どういうことだろう。【中編】で、その謎をひも解いてみよう。

Information

上富良野町郷土館

住所上富良野町富町1丁目3-30
Google Map
電話番号0167-45-3158(電話番号は上富良野町郷土館、開拓記念館、図書館、公民館に共通)
開館時間9:00~16:00
休館日4月~10月は月曜(祝日の場合は開館)、11月~3月は月曜~金曜(土曜・日曜・祝日のみ開館)
入館料無料
アクセス上富良野駅から徒歩約9分
関連リンクhttps://www.town.kamifurano.hokkaido.jp/index.php?id=1107

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

Information

上富良野町開拓記念館

住所上富良野町西3線北28号
Google Map
電話番号0167-45-3158(電話番号は上富良野町開拓記念館、郷土館、図書館、公民館に共通)
開館時間9:00~16:00
休館日5月、6月、9月、10月は月曜~金曜休館(土曜・日曜・祝日のみ開館)
7月、8月は月曜休館
11月~4月は冬期休館
入館料無料
アクセス上富良野駅から徒歩約30分
関連リンクhttps://www.town.kamifurano.hokkaido.jp/index.php?id=1114

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

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