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  3. 十勝岳と生きる ――泥流からの復興100年【後編】
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2026.07.13
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十勝岳と生きる
――泥流からの復興100年【後編】

波打つ丘、作物の種類によって色分けされたパッチワークのような畑…。
美しい田園風景から想像するのは難しいが、
上富良野(かみふらの)町と美瑛(びえい)町は、
100年前に起きた十勝岳(とかちだけ)噴火による泥流(でいりゅう)の被災地である。
苦難を乗り越えて復興した地に、ラベンダーが咲き、「白金(しろがね)青い池」が輝く。
悠久の歴史の中で絡み合う火山と人の物語をたどってみよう。

文:北室かず子/写真:田渕立幸

「白金(しろがね)青い池」は噴火の副産物

美瑛町の市街地から美瑛川に沿って十勝岳に向かう道は、シラカンバ(白樺)やダケカンバの林が続いていることから「白樺街道」と呼ばれている。100年前、ここを十勝岳噴火による泥流が流れ下り、森は失われてしまった。そんな荒廃地にいち早く芽吹くのが、シラカンバだ。落ち葉が土を作り、やがてエゾマツやトドマツの森へと移り変わっていく。白樺街道もまた、十勝岳噴火の痕跡なのである。

4月上旬の白樺街道。道が少しカーブするたび、十勝岳連峰の異なる山が入れ替わりで正面に見える。その山の名が路傍の標識で示されるのも楽しい。

その白樺街道沿いに、鮮やかなスカイブルーの水と立ち枯れした白い木で有名な「白金青い池」がある。本名は「美瑛川ブロック堰堤(えんてい)」。昭和63年(1988年)12月から翌年3月まで十勝岳の23回もの噴火で、不安定な土砂が大量に生じた。これが泥流や土石流を引き起こさないよう、築造された砂防ダムなのだ。いつ起こるかわからない土砂災害をにらみながら一刻も早く完成させるために、既製品のコンクリートブロックを積み上げて造られた。

多くの旅人を魅了する「白金青い池」。写真提供=美瑛町

それにしてもなぜ、こんなにも青く美しいのだろうか。「白金青い池」の水は無色透明であって、青色ではない。青く見える理由は次のようなものだ。

上流の白金温泉地区で湧出する水にアルミニウムなどの鉱物が含まれており、それが美瑛川の水と混ざることで目に見えない微細なコロイド粒子(粒子が分散している状態)ができる。このコロイド粒子と太陽光線が衝突すると光がいろいろな方向に散乱する。中でも波長の短い青い光は散乱されやすいため、私たちの目に青い光が届く。それで青く見えるのである。火山性の物質と太陽光線が生み出す魔法だ。つまり「白金青い池」も火山活動と人間の活動の副産物なのである。

その先にある白金温泉は、言うまでもなく火山の恵みだ。十勝岳ジオパーク推進協議会事務局次長で上富良野町ジオパーク推進室長の中村有吾(なかむら ゆうご)さんはこう語る。「温泉水は、地熱で地下水が温められたものです。同じ十勝岳の温泉でも白金温泉と上富良野町の十勝岳温泉は泉質が異なります。十勝岳温泉が酸性であるのに対し、白金温泉は中性に近く色も透明に近いのです。白金温泉ももとは酸性だったのですが、地下に長くあったことで中和されて中性になったと考えられています」。白金温泉に浸かると、優しい肌ざわりで心身ともに包み込まれる安らぎを感じた。

減災への備え

白金地区にある「十勝岳火山砂防情報センター(ヴォルガ)」も十勝岳ジオパークの拠点施設だ。

十勝岳連峰に手が届きそうな十勝岳火山砂防情報センター(ヴォルガ)からの眺望。4月上旬撮影。
十勝岳火山砂防情報センター(ヴォルガ)。

十勝岳火山砂防情報センター案内員の佐々木清美(ささき きよみ)さんが1階と2階を案内してくれた。佐々木さんに勧められて泥流のシミュレーション映像を体験してみた。時速60㎞にも達した泥流に飲み込まれる恐怖に震えた。【前編】でご紹介した『泥流地帯』(三浦綾子)の描写のなんと的確なことだろう。災害を心に刻み、常に備えることの重要性を肝に銘じた。

動画を佐々木さんに解説していただく。大正15年の泥流ではなぎ倒された大木が、横ではなく縦に回転しながら25分で市街地に到達した。

美瑛町総務課危機対策室地域防災マネージャーの多加秀樹(たが ひでき)さんは「ヴォルガ」の役割をこう語る。「24時間365日、無人で十勝岳を監視・観測しています。平時は十勝岳に関する展示施設であり、万一の際には避難場所となります。監視ではワイヤーセンサー、振動センサー(地震計)、熱センサーのデータを集約して自動的に北海道大学、気象台、国土交通省など関係機関に送っています」。ワイヤーセンサーとは火砕流や泥流が触れるとワイヤーが切れてその発生を知らせるもので、十勝岳の32カ所に設置されているそうだ。

山に設置した観測機器のデータが集まる十勝岳火山砂防情報センターの心臓部(非公開)。中央はワイヤーセンサー、右は熱センサーの状況が映し出されている。
十勝岳火山砂防情報センターの説明をしてくれた美瑛町のみなさん。左から、多加さん、佐々木さん、美瑛町総務課危機対策室長の細谷侯仁(ほそや きみひと)さん、危機対策係長の山口祐弥(やまぐち ゆうや)さん。

上富良野町と美瑛町では、十勝岳噴火への防災教育を25年以上、継続してきた。小学校で砂防ダムや「ヴォルガ」を訪れたり、望岳台に登って溶岩流の痕跡やワイヤーセンサーを見学したり。火山と共生する実践的な学びが積み重ねられている。

上富良野町、美瑛町の美しい風景の背後にある、泥流被害からの復興。分断と葛藤を乗り越え、奮闘し続けた100年は、わたしたちが次の100年に勇気を持って歩み出せるよう、静かに背中を押してくれているようだ。

Information

白金青い池

住所美瑛町字白金
Google Map
電話番号0166-92-4378(美瑛町観光協会)
アクセス美瑛駅から道北バスで約20分
関連リンクhttps://www.biei-hokkaido.jp/ja/shirogane-blue-pond

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

Information

十勝岳火山砂防情報センター(ヴォルガ)

住所美瑛町字白金
Google Map
電話番号0166-94-3301
開館時間5月~10月8:30~17:00 、11月~4月10:00~16:00
休館日5月~10月無休、11月〜4月火曜、年末年始(12月28日〜1月6日)
入館料無料
アクセス道北バス「白金温泉」停留所下車、徒歩約20分 (階段286段あり)
関連リンクhttps://www.hkd.mlit.go.jp/as/tisui/ho928l0000000y23.html

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

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