[道北・東川町]雪川醸造
「セントラルバレー」で醸される、日々の暮らしに寄り添うワイン

北海道はおいしいお酒の宝庫。JRに乗って、北海道のお酒を巡る旅に出かけましょう! 今回訪れたのは「写真の町」として有名な東川町。2020年、このまちに誕生した小さなワイナリーが「雪川醸造」です。ハレの日の特別な飲み物ではなく、「日常の風景の一部になるワイン」をつくるために東川町に移住してきたのは、元ITサービス企業の敏腕ビジネスマンでした。
今回の旅人

佐藤心路
#ファッションモデル
札幌市出身。客室乗務員として働きながら、モデルとしても活動中。趣味は旅行で、休日は国内外のさまざまな場所へ足を運び、そこでしか出会えない景色や食を楽しんでいる。お酒はワインとウイスキーが好き。旅先ではその土地ならではのお酒を探すのも楽しみのひとつになっている。
Index
今回のストーリー
築74年の赤レンガ倉庫を改装した醸造所
JR札幌駅からJR旭川駅までは、特急列車で最速1時間25分。好きな作家の文庫本を読みふけるうちに、「間もなく終点、旭川です」の車内アナウンスが聞こえてきました。なんだかあっという間です。駅前のバスターミナルから路線バスに乗って、東川町へ向かいましょう。
発車から1時間もかからずに東川町の道の駅に到着。移住者が増え続けている町らしく、周辺にはおしゃれなカフェやショップが点在しています。今回お邪魔するワイナリー「雪川醸造」の方も、そんな移住者のお一人だそう。ワイナリーは、道の駅から歩いてすぐの場所です。
事前に「赤レンガ倉庫で、入口にNO 5と書かれていますよ」とお聞きしていたものの、実際に来てみると特に看板もなく「ここで合っているの?」とちょっと心配になる佇まいです。「初めて来られる方にはよく言われますよ。もっとわかりやすくしてくれって」と笑うのは、出迎えてくださった代表社員の山平哲也さん。古くからあった農業用の倉庫を改造したワイナリーって、一体どんな感じなのでしょう。
スライドを使ったわかりやすいガイド
建物の中に入ると、事務所スペースにスライドが投影されていました。「ワイナリーツアーのお客さんにはこちらでガイドしているんですよ。前職がIT関係だったこともあって、このスタイルに慣れているもので」と山平さん。大阪出身らしく、時折ユーモアを交えながら雪川醸造やワイン造りについて教えてくださいました。
仕事でもプライベートでも海外経験が豊富だった山平さんは、いつしかワインが大好きになったそうです。「海外ではワインが日常的に楽しまれていますが、日本はまだ『ちょっと緊張する飲み物』という感じですよね。そのイメージを打破したいと思いました」。自分の手でワインをつくることを決意して、温暖化による気候変動の面から北海道が適地と考えたそうです。
道内で立地を検討する際に、山平さんが駆使したのは気象データ。「ぶどうの生育に重要なのは、積算温度・降水量・日照時間の3つです。気象庁のオープンデータを使って、候補の地域を比較しました」。その結果、最も条件が良かったのが東川町でした。30年ほど前から町内でワイン用ぶどうを栽培していて、原料を手に入れやすいことも決め手になりました。
また、東川町を含む上川地域は、南北に連なる山地に挟まれた盆地です。寒暖差が大きく、ワイン用のぶどう栽培に適しているそう。北海道のほぼ中央にあることから、山平さんたちはこの一帯を「セントラルバレー」という名前でアピールしています。「上川エリアと紹介するよりもわかりやすいですよね。いいと思いません?」と問われて、大きくうなずいた私です。
南半球での収穫と醸造にチャレンジした理由
東川町に狙いを定めた山平さんは、町役場を訪れて相談しました。本気でワイナリー設立を考えていることを知った担当者は、地域おこし協力隊として山平さん夫妻を受け入れることを決断。ワインづくりをミッションとする枠を新設してくれたそうです。2020年に東川町へ移住した山平さんは、その11月6日に念願のワイナリー「雪川醸造」を立ち上げました。
ワインづくりはまったくの素人だったと語る山平さんは、道庁が主催する「北海道ワインアカデミー」で学びながら、道内外の醸造家のもとで研修を積んでいきました。そして、2021年の秋から醸造をスタート。ぶどうは、東川町営の畑、石狩川河口付近の畑、そして余市町の畑から届いたものです。「内陸の畑と海に近い畑のぶどうを組み合わせて、バランスのいいワインづくりをめざしました」と山平さん。自社の畑を持つ現在も、雪川醸造のワインの多くは生産者との連携から生まれています。
仕込みの際には、収穫時に生産者が傷んだ実を取り除き、醸造所に運ばれた後にもう一度選果するという二段階チェックを行っています。きれいな状態のぶどうだけを使うことで、雑味の少ないクリーンな味わいを実現しているそうです。
山平さんが力を入れているのが、ニュージーランドや南アフリカでの「越境醸造」です。「日本と季節が逆の南半球に拠点を持つことで、年に2〜3回の収穫・醸造が可能になります」と山平さん。2024年から本格化させたこの取り組みは、効率的にスキルアップを図るためのもの。海外での経験を東川に持ち帰ることで、速やかにワインづくりの腕を磨いているのです。
日本の食卓にマッチする味わいの3種
さて、いよいよお楽しみの試飲です。通常のワイナリーツアー(予約制)では4種類が試飲できるそうですが、今回は3種類のワインをご用意いただきました。
「スノーリバー ソーヴィニヨン・ブラン ノースカンタベリー 2024」は、ニュージーランド・ノースカンタベリー仕込みの白ワイン。柑橘系の香りが立って、口に含むと爽やかな酸味が広がります。不思議なことに、後味に感じるのは和のテイスト。山平さんも「出汁のような風味でしょう」とニッコリ。いつも白ワインを飲んでいる私にとって「ストライク!」の1本です。
「スノーリバー ミュラー Hachi アンバー 2024」は、白ぶどうを果皮ごと醸したオレンジワイン。淡いオレンジ色で、上品な果実の風味が漂っています。飲んでみると、フルーティーさと酸味のバランスがいい感じです。「ぶどうの皮の渋みもほのかに感じられると思います。それがこのワインに深みを与えてくれるんです」。
「スノーリバー ピノ・ノワール Hachi 2024」は、雪川醸造が初めてリリースした赤ワイン。「赤ワイン、特にピノ・ノワールは難しいんです。白ぶどうを使うオレンジワインづくりで感覚を磨いてから、満を持して挑戦しました」。すっきりした甘さの、とても飲みやすい赤ワインです。鼻に抜けた香りがすっと消えていく感じ。日常の食事にも合わせやすいんじゃないかと思いました。
ちなみに、ボトルに貼られているエチケットのイラストの作者はなんと生成AI。「ワインの印象からイメージを思い浮かべて、AIに指示を出しています」と語る山平さん。ITサービス企業という前職での経験をフルに生かしているのですね。
東川町を望む自社のぶどう畑は収穫間近
ワイナリー見学の後、特別に雪川醸造のぶどう畑に案内していただきました。キトウシ山の麓にある傾斜地は、もともとソバを栽培していた場所。「関係者のご厚意でお借りすることができて。事前に土壌分析をして、ぶどう栽培に適した土壌に改良しました。南西向きなので、日当たりがいいのもラッキーでしたね」。
上部に森を背負う地形のため、エゾシカや野生化したアライグマ、渡り鳥などによる食害が悩みの種だそう。「以前は鳥の飛来と収穫期がずれていたのですが、近年はタイミングが重なるようになってきて」と山平さん。ネットなどで対策をしながら、収穫まで丁寧にぶどうを守っています。
訪れたときは、あと半月ほどで収穫できるというタイミングでした。「まだちょっと小さいし、糖度もこれからどんどん上がる感じですね」と山平さん。赤ワイン用のぶどうも最初は緑色で、熟すとともに赤紫色に変わっていくのだそう。それも、一房の中で粒ごとに熟していくのですね。初めて知りました。
最後にワイナリー名の由来を尋ねてみました。上川を含め北海道には「川」がつく地名が多いことから、雪解け水を意味する「Snow River」という英語名を先に考えたそう。雪川醸造はそれを訳したものです。「醸造というと日本酒をイメージされて、上川大雪酒造さんと間違えられることも少なくないんですよ」と笑う山平さんです。
雪川醸造がめざしているのは、「日常の中にあるワイン」です。「例えば、ビールや天ぷらも海外から入ってきたものですが、今では日本の食文化になっていますよね。それと同じように、ワインも身構えずに楽しむ存在になってほしいんです」。確かに、試飲させていただいたワインは和食にもぴったりの味わい。帰りの特急の車中で、日々の食卓に雪川醸造のワインがあるシーンがふと目に浮かびました。
Information

雪川醸造合同会社
| 住所 | 上川郡東川町東町2丁目1-6 Google Map |
|---|---|
| アクセス | JR旭川駅からバスで約50分 |
| 関連リンク | https://www.snowriverwines.com/ |
※6〜9月の限られた日程でテイスティングを含めたワイナリーツアーを実施。詳細は関連リンクから。
※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。
雪川醸造のお酒が飲めるお店
食堂フラミンゴ[旭川市]
旭川市の買物公園にある「食堂フラミンゴ」。シンプルでスタイリッシュな外観と丸い看板が目印です。市内の人気フレンチ「Restaurant LeAnn(ルアン)」の姉妹店として2025年7月にオープンして以来、市民や観光客が足しげく訪れます。「LeAnnはコース料理ですが、うちはアラカルトがメインなので、お一人様でも気軽にお越しいただければ」とスタッフの幸坂さん。道産食材に加えてワインも道産にこだわっていて、雪川醸造のワインもグラスやボトルで常備しているそうです。「時期によって種類は変わるので、ご来店されてのお楽しみです」。食堂という名前の通り普段使いできるカジュアルなビストロには、暮らしに寄り添う雪川醸造のワインがぴったり。生ハムやチーズ、旬野菜のマリネなどが一皿に乗った「前菜の盛り合わせ」と一緒に、ゆったりと味わってみてください。
Information
| 住所 | 旭川市3条通8丁目右1 Google Map |
|---|---|
| 電話番号 | 0166-74-7033 |
| 営業時間 | ランチ 11:30~15:00 (L.O. 14:00)、ディナー 17:00~22:00 (L.O. 21:00) |
| 定休日 | 日曜・月曜(不定期) ※詳しくはお店のinstagramをご確認ください |
| アクセス | JR旭川駅から徒歩約5分 |
| 関連リンク | https://www.instagram.com/flamingo250701/ |
※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。






















