[道東・厚岸町]厚岸蒸溜所
湿原と霧に育まれた、唯一無二のジャパニーズウイスキー

北海道はおいしいお酒の宝庫。JRに乗って、北海道のお酒を巡る旅に出かけましょう! 今回訪れたのは、牡蠣の名産地として知られる道東の厚岸町。この町に厚岸蒸溜所があります。「北海道という土地で、スコットランドの伝統的製法による本格的なモルトウイスキーを造りたい」という熱い想いから生まれたウイスキーの味わいは、まさに格別なものでした。
今回の旅人

泉 桜子
#ファッションモデル
室蘭市出身。現役歯科衛生士として勤務しながらモデル活動を行う。特技は、患者さんに「寝ている間に終わっていた」と言っていただける歯のクリーニング。休日はランニングやジムで身体を動かし、リフレッシュする時間を大切にしている。お酒が好きで、父の影響からウイスキーにも興味を持つように。今回実際に蒸溜所を訪れて、その魅力に触れられたことは特別な思い出となった。
Index
今回のストーリー
JR厚岸駅からタクシーで6分の蒸溜所へ
札幌駅から「特急おおぞら」と「快速ノサップ」を乗り継いで5時間あまり。JR厚岸駅の駅舎を出ると、風に乗った潮の香りを感じました。駅前のターミナルには、前に「駅弁カイタイ新書」の記事で紹介されていた「氏家かきめし」の販売所もあって、ますます旅情が高まります。さて、タクシーでさっそく厚岸蒸溜所へ。
乗車して6分ほどで蒸溜所に到着しました。周辺には見渡す限りの草原が広がっていて、途中でエゾシカの姿も見かけるほど自然が豊か。敷地内には「AKKESHI」の大きな文字やロゴが入った、おしゃれな建物がいくつか建っています。ここで、世界的なコンテストでも高い評価を受けている厚岸ウイスキーが造られていると思うとワクワクします。
青空と緑の中、真っ白な蒸溜所はとっても映えます。スコットランドの蒸溜所に来たような気分になりました。
めざしたウイスキー造りに最適の風土
今回ご案内いただく堅展実業株式会社の池田さんと長谷川さんに、厚岸蒸溜所の概要をお聞きしました。「弊社はもともと食品輸入商社で、ウイスキーとは縁がなかったんです」と池田さん。代表取締役の樋田恵一さんがアイラモルトに憧れ、理想のウイスキーを造りたいと思ったのが始まりでした。そして、未成熟のウイスキー原酒を入手して自社で熟成させたいと考えましたが、ちょうど日本でウイスキーの人気が高まってきた頃で、原酒を売ってくれるところがなかったそうです。
「それなら自分たちで原酒を造ればいい」と考えて、蒸溜所の設立に向けて北海道各地を回った樋田さんの目にとまったのが厚岸町でした。「樋田が愛飲するスコッチウイスキーの産地、スコットランド・アイラ島によく似ていたんです。町の担当者さんも受け入れに積極的だったこともあって、まずはここでウイスキー原酒の試験熟成を行いました」。その結果が良好だったことから、2016年、北海道で約80年ぶりとなるウイスキー蒸溜所を建設しました。
別寒辺牛(べかんべうし)湿原を有し、海霧が多く発生する厚岸の風土は、蒸溜所の建設でここを訪れたスコットランドの職人が「本当にアイラ島とそっくりだ」と驚いたほど。年間を通じて寒暖差が大きく、しかも温度帯が低いため、「樽の中でゆっくりと熟成していくんです」と長谷川さん。現在は年間約300日の稼働で、1日あたり約1トンのモルト(大麦麦芽)を使っておよそ600リットルの原酒を生産しています。
安定して高品質の原酒を造り続けるために
いよいよ蒸溜所の見学です。内部には入れませんが、今回は特別に蒸溜棟の外階段からバルコニーに上がり、説明を聞きながら窓から中の様子を見ることができました。右側手前にあるのが、粉砕した大麦麦芽とお湯を混ぜ合わせて、デンプンを糖分に分解するための「マッシュタン」。左側手前の「ポットスチル」は、ウイスキー造りの要となる蒸溜器です。「二段階で蒸溜して、1回目はアルコール約20〜25%、2回目で約70%まで度数を上げます」。
この2基のポットスチルはスコットランドのフォーサイス社製。同社の職人が蒸溜所を訪れて、設置や調整に当たったそうです。原料となるモルトは、海外から輸入したものに加え、北海道産を5割ほど使っています。「北海道で造るウイスキーだから、なるべく北海道の原料を使おうということです」と話す池田さん。
水に浸して発芽させたモルトを乾燥させる際に、ピート(泥炭)を使うのが厚岸ウイスキーの最大の特徴です。ピートを燃やした煙で乾燥させることで、独特のスモーキーな香りをまとったモルトになるのですが、これこそスコットランドの伝統的製法。ちなみに、このピートも厚岸町内で採掘されています。アイラ島と同じく、ピート層を通って運ばれてくる天然水が仕込み水に使われています。
パートを含めてスタッフ30名弱の小さな蒸溜所で最も重視されているのは清掃で、「食品と同じように、ウイスキーも口に入るものですから、とにかく衛生管理を徹底しています」。日々の作業ですべてのデータを取って可視化し、製造方法を標準化・マニュアル化しているのも、安定して高品質の原酒を造り続けるためだそうです。
熟成樽には厚岸産ミズナラを使った樽も
続いて、熟成庫に案内していただきました。中に入ると、ほんのりとウイスキーの香りが漂っています。「横になっているのが熟成中の樽で、縦のものは使用済みかこれから使う樽です」。木製の板を挟んで樽を積み重ねる、「ダンネージ式」と呼ばれる伝統的な保管方法です。厚岸蒸溜所がお手本にしているスコットランドの老舗蒸溜所もこの方式だそうです。
できた原酒を最初に熟成させるこの建物には断熱材が入っておらず、外とほぼ同じ環境だそう。「自然の中で熟成させるためです。海霧の中で熟成が深まると厚岸らしいウイスキーになるんです」。熟成庫を包む海霧は、まるで産着のようにウイスキーを育みながら潮の香りをまとわせてくれるのでしょう。また、樽を3段までしか重ねないダンネージ式は、ほかの保管方法に比べて熟成のばらつきが出にくいというメリットもあるそうです。これも、高品質を誇るウイスキー造りのポイントなのかも。
原酒を木の樽で3年以上熟成させなければ、ウイスキーを名乗ることはできません。ウイスキーの熟成には、バーボンや赤ワイン、シェリー酒など、他のお酒を仕込んだ樽が使われます。原材料やピートのスモーキーさ、蒸溜の加減などに加えて、どんな樽で熟成させるかによって原酒の香りや味わいが決まるそうです。ブレンダーがそれらをブレンドしてさまざまな味わいを生み出しているのです。
その中に、厚岸産のミズナラを使った樽がありました。「弊社が目標としているオール厚岸産のウイスキーには欠かせない樽です」。ミズナラ樽はジャパニーズウイスキーの象徴でもあり、これで熟成すると香木を思わせる上品な香りと奥行きのある甘みを持つウイスキーになるとのこと。フルーティーでありながらピーティーなのが厚岸ウイスキーの特徴と伺いましたが、そのフルーティーさを担っているのがミズナラ樽なのかもしれないと思いました。
厚岸らしいウイスキーを厚岸で味わう
事務所へ戻って、特別に厚岸ウイスキーを試飲させていただけることになりました。「何がいいですかね」と思案しながら、池田さんが選んでくれたのは、この3月に発売された「厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー 春分」と、厚岸町内の飲食店でしか飲めない「厚岸ブレンデッドウイスキー 牡蠣の子守唄」の2本。さて、どんな味わいでしょうか?
まずは、2020年10月からスタートした「二十四節気シリーズ」の「春分」からいただきます。二十四節気とは、1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けて季節を表すもの。立春・立冬や夏至・冬至などは知っていましたが、ほかにもこんなに季節の名があるのですね。「春夏秋冬で1本ずつ、年間4本をリリースしてきましたが、今年中に最後の1本が出ます」と池田さん。
「北海道産麦芽の原酒を贅沢に使ったシングルモルトです」との説明のあと、グラスを手に取ってまず香りを。スモーキーですが、その中に春を思わせる桜や桃のようなフルーティーさを感じます。一口含んでみると香りがふわりと鼻に抜け、甘みがあってやわらかい味わいです。何というか、味が太いという感じ。初めて飲むタイプのウイスキーですが、とてもおいしいです。
続いては、「牡蠣の子守唄」。長谷川さんいわく「ボトルでの販売ではなく、町内の飲食店様限定でご提供しているブレンデッドウイスキーです」。こちらもまず香りから。「春分」よりもスモーキーさがガツンと来ます。まるで燻製のような香りです。飲んでみましょう。ひとことで言うと「渋い」味わいですが、後味はとてもすっきりしています。どんな食事ともよく合いそうなウイスキーですね。
厚岸蒸溜所がめざしているのは、「五感で楽しむ総合芸術としてのウイスキー」です。池田さんが「二十四節気シリーズは今年でひとまず完結となりますが、これからも厚岸らしいウイスキーを造り続けます」と語れば、「ぜひ厚岸へ来て、海の幸と一緒に楽しんでほしいですね」と長谷川さんもニッコリ。さあ、海霧が香る風土の中で唯一無二のウイスキーを楽しむ、厚岸への旅へ出かけましょう!
Information

堅展実業株式会社ウイスキー事業本部 厚岸蒸溜所
| 住所 | 厚岸郡厚岸町宮園4丁目109-2 Google Map |
|---|---|
| 電話番号 | 0120-66-1650(お客様センター) |
| アクセス | JR厚岸駅から車で約6分 |
| 関連リンク | https://akkeshi-distillery.com/ |
※一般の蒸溜所見学は受け付けていません。また、蒸溜所での製品販売も行っていません。見学ツアーの詳細については下記へお問い合わせください。
●厚岸味覚ターミナル・コンキリエ(事前予約制)
●ホテル五味(宿泊者限定)
※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。
厚岸蒸溜所のお酒が飲めるお店
ホテル五味[厚岸町]
JR厚岸駅の目の前にある「ホテル五味」は、牡蠣を中心とした料理が自慢の老舗ホテル。1階にあるBARの棚には、厚岸ウイスキーのコレクションがずらりと揃っています。代表取締役の五味尚紀さんいわく「海外販売のものも可能な限り入手しています」。圧巻の品揃えを誇る厚岸ウイスキーがお目当ての宿泊客も年々増えているそうで、宿泊者限定の蒸溜所ツアーも大人気。樽に使われるミズナラの製材工場やピートの採掘現場もコースに入っていますが、「実は、ピートを採掘しているのは弊社の土地なんですよ」と五味さん。ここで味わいたいのは、もちろん牡蠣とのマリアージュ! 生牡蠣2個と、使用後の樽の木片でいぶした牡蠣1個のセットにぴったりなのが、町内の飲食店限定「牡蠣の子守唄」です。五味さんにおすすめの飲み方を尋ねると、「ハイボールですね。ソーダで割るとスモーキーさがより引き立ちます」。厚岸ウイスキーの聖地で、旅の醍醐味を味わう至福のひとときをどうぞ。
Information
| 住所 | 厚岸郡厚岸町宮園1丁目11番地 Google Map |
|---|---|
| 電話番号 | 0153-52-3101 |
| 営業時間 | BAR営業 19:00〜23:00 |
| 定休日 | 日曜 |
| アクセス | JR厚岸駅から徒歩1分 |
| 関連リンク | http://www.hotelgomi.com/ |
※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。
























