青函レボリューション
――海峡の記憶をたどる【中編】
津軽海峡で隔てられているにもかかわらず、
函館と青森の間は、太古から人の行き来が途絶えたことはなかった。
縄文土器、日本最大の埋蔵銭、物流革命、世界最長の海底トンネル…、
そして北海道新幹線の開業によって新幹線が津軽海峡をつなぎ、今春で10年。
海峡が秘める変革の記憶をたどった。
文:北室かず子/写真:田渕立幸
国土をつないだ青函航路
明治維新で日本は新しい時代へと歩み出した。その近代化、工業化を支えたのが北海道の石炭である。まず、内陸の炭鉱から港へと鉄道が敷かれ、やがて移住者をはじめ必要な物資、産物を運ぶために北海道の鉄道網はどんどん広がっていった。
明治38年(1905)、函館―小樽―札幌―旭川の鉄路がつながる。既に東京―青森間の鉄道は開通していたので、明治39年に青函航路が国有になったことで国土軸がつながった。
日本鉄道株式会社によってイギリスに発注されていた蒸気タービン船の比羅夫(ひらふ)丸と田村(たむら)丸が就航すると、人々はその速さに驚嘆した。函館ではタービンという言葉が流行し、ハイカラな語感にあやかったタービン洋服店、タービン靴店も現れた。



ところが、伸びゆく鉄路のために本州で新造された蒸気機関車を北海道へ運ぶには、一度、解体して津軽海峡を渡り、再び組み立てるしかなかった。これでは日数も手間も要する。
さらに、第一次世界大戦が起きると船が不足し、貨物が鉄道に集中。函館・青森両停車場には滞った貨物が山となった。

輸送方法の改革に乗り出した鉄道院運輸局船舶課は、貨車航送の検討を始めた。貨車航送とは、貨車ごと船に積み込むものだ。貨車航送ならば積みおろし時間が短縮でき、貨物の損傷・誤積・海中落失などもなくなるではないか。
この貨車航送に不可欠な設備が可動橋である。岸壁と船をつなぎ、潮位や船の喫水の変化に応じて動く橋だ。
大正14年(1925)年5月20日、青函航路初の可動橋が函館港に建造された。それによって青函連絡船での貨車航送が始まった。

100歳を迎えた可動橋
可動橋は現在、御年100歳。函館市青函連絡船記念館 摩周(ましゅう)丸に寄り添うようにたたずんでいる。摩周丸は、青函連絡船の終航の日まで運航していた船。本物の船内で、青函連絡船の歴史、技術を知ることができる。
この摩周丸と可動橋は、青森港の八甲田(はっこうだ)丸と可動橋と共に、日本機械学会の「機械遺産」に認定されている。認定理由は、機械技術の発展史上、重要であることと、国民生活に大きく貢献したこと。つまり工学・文化の両面から、歴史的価値が認められたのだ。
貨車航送を担う責任
特定非営利活動法人 語りつぐ青函連絡船の会 総務課長の秋田博文(あきた ひろぶみ)さんは昭和51年(1976)から10年間、青函連絡船に乗船した経歴の持ち主だ。しかも、クォーターマスター(操舵手)という重要なポジションを務め、貨車航送に直結する業務に当たっていた。
「連絡船の貨車甲板にはレールが1番線から4番線まで敷かれていて、貨車が48両入りました。貨車入れ替え作業の際は、特に船の傾きに注意しなければなりません。例えば4番線(船首に向かって右端)の貨車を引き出すと、そちら側が軽くなるため船が左側に傾いてしまいます。そのままでは貨車が脱線してしまうので、船の左右にあるヒーリングタンクの海水を右側に移送して平衝を保ち、バランスを取る作業が最も緊張しました。積み込んだ貨車には揺れに備えて1両1両に緊締具(きんていぐ)を掛けます。この作業は甲板員時代に担当しましたが、時化(しけ)ると緩むので、見回り点検が欠かせません。航海中は本当に忙しい、忙しい。本州と北海道を結ぶ大動脈ですから、たいへんな責任を感じながらやっていました」と、秋田さんは語る。



青函連絡船が就航していた頃の津軽海峡はイカ釣り船がひしめき、集魚灯で夜も真昼のようだったという。「われわれはレーダーで確認しながら、漁船の隙間を縫っていくんですが、漁船は船体を安定させるためにパラシュート状のシーアンカーも海上に流しています。それにも引っ掛からないように細心の注意が必要でした。港に着くと、摩周丸の船尾のレールと可動橋をつなぐのですが、可動橋の先端に取り付けられている可動式レールをスペシャルレールというんですよ」。
荒海を渡り、新しい大地へ貨車を渡すスペシャルレール。その先には遥かな鉄路が伸びている。


【後編】では、貨車航送と共に起きたもう一つの変革と、北海道新幹線が疾走する青函トンネルに迫ってみよう。
Information
函館市青函連絡船記念館 摩周丸
| 住所 | 函館市若松町12番地先 Google Map |
|---|---|
| 電話番号 | 0138・27・2500 |
| 開館時間 | 11月~3月9:00~17:00(入館は16:00まで)、4月~10月8:30~18:00(入館は17:00まで) |
| 休館日 | 年末年始(臨時開館あり)、船舶検査・修繕・天候険悪時など臨時休館あり |
| 入館料 | 一般500円、小中高校生250円、年間券一般1,000円、小中高校生500円 |
| アクセス | 函館駅正面口から徒歩約4分 |
| 関連リンク | https://www.mashumaru.com |
※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。


