

アイヌ文化のことをもっともっと話したい!
本田優子と村木美幸の二人が、
その魅力を交代で執筆するソンコ(=お便り)形式のエッセイです。

本田優子(ほんだゆうこ)
金沢市生まれ。札幌大学教授。北大卒業後11年間平取町二風谷に住み、アイヌ語講師を務める。
村木美幸(むらきみゆき)
白老町生まれ。アイヌ民族文化財団副理事長。先住民族アイヌの一員として文化継承活動に努める。

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今月のテーマ

ラマッカㇻカムイ
(魂を作るカムイ)
本田優子(札幌大学教授)

アイヌの伝統的な世界観では、人間(=アイヌ)をとりまく周囲環境をカムイと呼び、それら全てが魂を持っているとされます。ただ、カムイと言っても様々。動物や植物、道具などのカムイは物語や言い伝えにもたくさん登場しますが、滅多に名前を聞かないレアなカムイも存在します。
なかでも私がとても心惹かれるのはラマッカㇻカムイ。ラマッ=魂、カㇻ=~を作る、つまり人間の魂を作る神です。このラマッカㇻカムイが登場する素敵な子守歌があるので、あらすじをご紹介しましょう。平取町の川上まつ子さんが歌われたものです。
「なにを泣いているのか聞きたくて、お前が泣いているというのなら、聞かせてあげましょう。霧の天、星の天、真の天を通り抜けたら、きれいな小川が流れる景色が明るく広がっている。川をさかのぼっていくと川の片方には、銀のカシワ林、銀のヨモギ原、銀の石。もう片方には金のナラ林、金のヨモギ原、金の石。あたり一面ピカピカ光っていて、さらにずっとさかのぼると、金の大きな家がある。家の片面には荒れた空の絵、片面には日光の絵が描かれている。そこでまさにラマッカㇻカムイが、60のゆりかごを家の上座に吊るし、60のゆりかごを家の下座に吊るし、上座のゆりかごを一斉に揺らし、下座のゆりかごを一斉に揺らす。するとそれらの赤ちゃんの泣く声が人間の国土に降ってきて、それでこの世にあるものが眠りなのだ。そのことをお前は聞きたくて泣いているのだから、言って聞かせてあげるのだよ」

私は、ウポポイの前身である財団法人アイヌ民族博物館所蔵の音声資料でこの子守歌を初めて聴いた時、深く心を揺さぶられました。なんとスケールが大きく美しくて不思議な世界。こんな子守歌を聴きながら育つ子どもたちっていったいどんな人間になるのでしょう。まさにアイヌ文化の揺籃(ようらん)。その後、この子守歌は、「60のゆりかご」というタイトルでアイヌ民族文化財団によってアニメ化され、財団HPあるいはYouTubeで観ることができます。
ただ、完成したアニメを観た時には大ショック。私はラマッカㇻカムイに男性のイメージを抱いていたのですが、アニメでは白髪のおばあさん神として描かれていたのです。密かに自分のジェンダー観を恥じたものです。でも実のところ、性別はよくわかりません。たとえば、知里幸恵さんの伯母である金成マツさんが書き残した「踊ろう跳ねよう物語」に登場するラマッカㇻカムイは、6人兄弟6人姉妹の計12名 !ここにもアイヌ文化の多様性が表れていますね。

