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  3. レールが誘う銀世界――冬のリゾート、ニセコの系譜【後編】
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2025.12.15
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レールが誘う銀世界
――冬のリゾート、ニセコの系譜【後編】

パウダースノーを求めて世界中から人々がやってくるニセコ。
始まりは、明治時代、オーストリア=ハンガリー帝国のレルヒ中佐が率いる、
蝦夷富士(羊蹄山)スキー登山だ。
これに触発され、東北帝国大学農科大学(現・北海道大学)と小樽高等商業学校(現・小樽商科大学)の
学生たちがスキーで山々に分け入った。
いつの世も、白銀への旅はときめきに満ちている。
ニセコの山と旅の歴史をひもといてみよう。

文:北室かず子/写真:田渕立幸

ニセコひらふスキー場の開業

雪山を自力で登り、誰のシュプールもない新雪を滑り降りる。自然と一体となる山スキーの聖地となったニセコ。やがてリフトの設置によって、多くの人々がスキーを楽しめる時代がやってくる。

開業当初のニセコひらふスキー場(昭和37年3月撮影)。倶知安風土館所蔵

昭和36年(1961)12月17日、ニセコひらふスキー場が開業した。驚くべきことに、当初、リフトはスキー場の施設として考えられたものではなかった。自生するチシマザサを原料にして合成材を製造する工場が誘致され、チシマザサを搬出するためのリフトとして計画されたのだ。事業母体は東京の日東商船(株)。当時、ニセコは第40回全日本スキー選手権大会アルペン競技会の内定を得ながらも、リフト設備がないため決定が保留されていた。そこで関係者は日東商船(株)の竹中治(たけなか おさむ)社長に、チシマザサ搬出用と共にスキー用リフトの架設も陳情。竹中社長は「全国の有名スキー場を視察したが、駅(比羅夫駅)からゲレンデが見えるのはここだけ」と、ニセコの可能性に注目したという。

安価な合成材が海外から輸入され始め、工場建設は頓挫したが、スキー用リフトは実現した。リフト運営会社としてニセコ高原観光(株)も設立され、「ニセコひらふスキー場」の開業に至ったのだ。国鉄では、前シーズンから札幌駅~狩太駅(現・ニセコ駅)間にスキー列車として【準急】ニセコ号の運行を始めていた。

山線のレガシー、ニセコ鉄道遺産群

さて、倶知安駅、比羅夫駅、ニセコ駅、昆布駅のある函館本線小樽駅~長万部駅間は、車窓から美しい山々が望めることから「山線」と呼ばれる。そんな山線のレガシーが、ニセコ駅に隣接するニセコ鉄道遺産群だ(公開は4月下旬~10月上旬)。

ニセコ鉄道遺産群に保存されているニセコエクスプレス。

10月12日にはイベントが行われた。題して「ニセコ鉄道遺産群ハロウィン大公開2025」。中でも注目を集めたのが、「ニセコエクスプレスガイドツアー&旧新得機関区転車台大回転ショー」だ。

ニセコエクスプレスは、昭和63年(1988)、JR北海道苗穂工場で誕生したリゾート列車だ。千歳空港駅(平成4年からは新千歳空港駅)とニセコ駅を結び、白銀へのときめきを乗せて走った。引退後は解体予定だったが、クラウドファンディングで全国から支援が寄せられ、先頭車1両が保存された。

この日のイベントは、車内に入ることができる特別なもの。しかも車体は旧新得機関区転車台にのっている。広い窓、ブルーを基調にしたクールでスポーティな内装…。シートに身を沈めていると、外の景色が動き始めた。転車台の回転が始まったのだ。

旧新得機関区転車台にのったニセコエクスプレス。
ニセコエクスプレスの車内。
転車台が回転し始める。

そこに有島記念館の学芸員、伊藤大介(いとう だいすけ)さんの声が響く。「ニセコエクスプレスは、有島記念館最大の収蔵資料です」。有島記念館といえば、明治から大正期の作家・有島武郎(ありしま たけお)の足跡を中心に、ニセコ地域の魅力を発信している。なぜ、文学者の館で鉄道車両なのだろう。

熱のこもった説明で参加者をひきつける伊藤さん。

農業と観光の町、倶知安だから

伊藤さんいわく「今やニセコは国際リゾートとして知られていますが、明治期から昭和中期にかけては鉄道が町と町を結ぶ唯一の手段でした。国道は戦後まで未舗装で、除雪もされていなかったのです。そんな中で、時速65㎞のSLが急行列車を引き、国鉄はニセコの登山・山スキー・温泉を全国に売り込みました。高度経済成長期には札幌駅から週末、スキー列車が出ました。ニセコのリゾートの萌芽は鉄道にあるといっても過言ではないのです。農業も観光も定時輸送で都市部と繋がって初めて成り立ちます。農業と観光の町をうたうニセコ町は、鉄道あってこそなのです」。

「博物館がモノを保存するには金と責任が伴う」と、伊藤さん。それを背負いながらもニセコエクスプレスをはじめとする資料を収蔵するのは、ニセコ地域の歩みを次世代に伝えるために価値ある資料だからに他ならない。

ニセコエクスプレスは塗装技術の遺産でもあるとして、再塗装に備え塗料の記録はもちろん、鉄道特有の文字、ロゴ類を型にして複製できるようにし、破損の際の予備部品も確保しているという。

苗穂工場製であることを示す車両記号。
ニセコエクスプレスが誕生したのはスキーブームの真っただ中。当時のスキー板やウエアも保存されていて、時代の空気までもが蘇るようだ。

R4のパワー

この日、設計に携わった元JR北海道苗穂工場長で札幌交通機械(株)技術顧問の佐藤巌(さとう いわお)さんの姿も、そこにあった。「ニセコエクスプレスは4番目のリゾート列車なのでR4(※)と呼んでいます」。

(※)R1:アルファコンチネンタルエクスプレス[昭和60年(1985年)]、R2:フラノエクスプレス[昭和61年]、R3:トマムサホロエクスプレス[昭和62年]、R4:ニセコエクスプレス[昭和63年]、R5:クリスタルエクスプレス トマム&サホロ[平成元年(1989年)]、R6:ノースレインボーエクスプレス[平成4年]。

佐藤さんは続ける。「従来のリゾート列車は古い車両を改造したものでしたが、ニセコエクスプレスは約50年ぶりに苗穂工場で設計、製造した新車です。R3までは展望性を良くするために床を高くしていましたが、急曲線が多い山線で曲線部の通過性能を上げるべく、重心を低くしています。また、急こう配への対策として通常は1両に1基つける駆動用エンジンを3両に5基、装備して、単位重量あたりのエンジン出力を大きくし、加速力を増大させました」。

パワフルかつスマートな車両なのだ。製造現場も活気に満ちていた。道産子車両として部品もできる限り道内企業に発注し、車体の強度を支える骨組みや外板などの構体(こうたい)は、当時の新日鐵室蘭製だ。

「現場の技能職の技術力が高く、設計者が図面に表現しきれないものをとらえて作ってくれる。それを設計者が図面にフィードバックしていったこともあります。車両メーカーに発注すると2~3年かかるところ、R4の製作期間はわずか4カ月ほど。同時期に寝台特急『北斗星』の改造工事も重なり、寝袋持参で泊まり込んでやっていました」。

昭和63年9月14日のニセコエクスプレス。わずか3カ月後の12月10日に3両が完成した。佐藤巌 撮影

ニセコエクスプレスの製造で培われた技術は、現在も走る車両261系(特急「宗谷」、「北斗」、「おおぞら」)などに引き継がれている。

変わるもの、変わらぬもの

山線では、SLをはじめ、ニセコエクスプレス、ノースレインボーエクスプレスなどさまざまなリゾート列車が走ってきた。

有島記念館に展示されているノースレインボーエクスプレスの資料。

令和5年(2023)からはゆったりとしたラウンジを備えたキハ261系5000代「はまなす」編成の車両が毎年秋に特急「ニセコ号」として運行。山線ならではの車窓風景はもちろん、沿線のおもてなし、特産品販売で極上の列車旅が楽しめる。

イベントでニセコエクスプレスが載った旧新得機関区転車台は、C62 ニセコ号の方向転換のために新得駅から運ばれてきたものだ。運転終了とともに眠りについていたのだが、令和2年(2020)に蘇った。それを担ったのは、ニセコ鉄道文化協会のメンバーでもあるJR北海道苗穂工場の面々だ。佐藤さんいわく「外部から電気を与えるスリップリングやモーターのブラシを修繕しました。これらは、長い間、使われていなかったために腐食していたのです」。

ニセコエクスプレスを生み出した技術者たちが、転車台にも再び命を注ぎ込んだのだ。ニセコエクスプレスの電気系統も整備され、ヘッドライトが灯り、車内アナウンスも響くようになっている。

旧新得機関区転車台とニセコエクスプレス。
ニセコ鉄道遺産群に保存されている蒸気機関車「9643」。北海道でこの形式(9600形)が初めて使われたのは山線だった。

函館本線 山線が開通し、レルヒが列車でやって来て蝦夷富士スキー登山を行った。学生たちが山に魅せられ、地元の人々がスキーを盛り上げていった。札幌オリンピックの誘致に合わせて倶知安町は「スキーの町」を宣言し、1980年代のスキーブームではゲレンデに人々があふれた。やがてニセコに魅せられた人々が移住してペンションを開いていった。1990年代になるとパウダースノーに憧れるスキーヤ-やスノーボーダーが世界中から集まってきた。そして宿泊業やスキー場経営に参入する外国人も出てきた。

唯一無二の魅力

ニセコは変化し続けている。しかし、蝦夷富士の厳しく豪快な自然はレルヒの時代と変わらない。

羊蹄山山頂。ここから一気に滑り降りるのが山スキーの醍醐味。北海道大学体育会山スキー部  撮影
北海道大学体育会山スキー部 撮影

北海道大学体育会山スキー部の瀬地山 玄聖(せちやま げんせい)さんは、こうコメントを寄せてくれた。「『自然に畏敬の念を持ち、安全を最優先に、山とスキーを楽しむ』を基本理念とした山スキー部は前身のスキー部を含め今シーズンで114シーズン目になりました。1世紀前に我々の先輩が初登頂を果たした羊蹄山にも毎シーズン入山しております。羊蹄山の滑走では、山頂から全行程を一気に滑り降りるという、他の山では味わえない爽快感を満喫できます。この唯一無二の魅力が、多くの部員を虜にしています」。 

白銀への旅は、この冬もときめきに満ちている。

羊蹄山山頂にて。北海道大学体育会山スキー部 撮影

Information

有島記念館

住所虻田郡ニセコ町字有島57
Google Map
電話番号0136-44-3245
開館時間10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日月曜・第1・3・5火曜(祝日の場合は開館)、臨時休館あり、年末年始(12月29日~1月5日)
入館料一般500円、高校生以下および65歳以上のニセコ町民は無料、年間パスポート800円
アクセスニセコ駅より徒歩約30分、倶知安駅から道南バス「有島記念館前」停留所から徒歩約5分
関連リンクhttps://www.town.niseko.lg.jp/arishima_museum/

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

Information

ニセコ鉄道遺産群

住所虻田郡ニセコ町字中央通144(ニセコ駅隣接地・ニセコ大橋側)
Google Map
電話番号0136-44-3245(有島記念館)
旧新得機関区転車台および蒸気機関車「9643」は毎日公開(降雪期を除く)
ニセコエクスプレスの令和7年公開は終了
入館料見学無料
アクセスニセコ駅隣接地(ニセコ大橋側)
関連リンクhttps://www.town.niseko.lg.jp/arishima_museum/niseko_cultural_heritage/

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

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