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  3. 古代オホーツク紀行 ――海の狩猟民が生んだ造形を求めて 【後編】
  • 北海道ヒストリア

2026.02.09
  • 北海道立北方民族博物館
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  • オホーツク文化
  • 網走市

古代オホーツク紀行
――海の狩猟民が生んだ造形を求めて 【後編】

奈良・東大寺の大仏が開眼した頃、北海道のオホーツク海沿岸では、
謎に満ちたオホーツク文化が花開いていた。
オホーツク文化を担ったオホーツク人は、海の狩猟民だ。
大陸からサハリンを経て北海道に来たとされ、その道すじは流氷の南下と重なる。
オホーツク人が残した造形は、シンプルにして本質をつかんでおり、
動物像からは狩猟民ならではの鋭い観察眼もうかがえる。
生命感あふれる造形を訪ねて、網走、斜里を旅した。

文:北室かず子/写真:田渕立幸

北方の厳しさと美

大陸やサハリンから北海道のオホーツク海沿岸に住みついたオホーツク人。その旅の軌跡は、オホーツク海北部で生まれた流氷と重なっている。

太古から流氷の生成が繰り返されてきたように、古来、北方世界ではさまざまな民族が寒冷な自然の中で多彩な暮らしを紡いできた。

網走市では例年、1月下旬頃から流氷が見られる。※気象状況によって時期は変動します。写真提供=(一社)網走市観光協会

そうした北方民族の文化に触れられるのが、網走市にある北海道立北方民族博物館だ。北海道、サハリンや千島列島のアイヌをはじめ、サハリンのニブフ、ウイルタ、スカンディナビアのサミ(ラップ)、グリーンランドのイヌイトなど、北方諸民族の暮らしを収集・展示・研究している。

展示室でまず目を奪われるのは、毛皮や渡来のビーズを使った衣装の数々だ。厳しい自然の中で生き抜くための巧みな手仕事に圧倒され、豊かな色彩やデザインで人生を彩ろうとする美意識にうっとりする。

世界の北方民族の衣服を通して、北方の美意識に没入できる。北海道立北方民族博物館にて。

さらに、館内にはアラスカエスキモーの半地下式住居が再現されていたり、トーテム・ポールがそびえていたり。北方世界を旅しているような気持ちになる。

館内の奥まったところに、手のひらに乗るくらいのオホーツク文化の遺物たちがいた。とりわけ有名なのが牙製女性像(モヨロ貝塚出土)で、「オホーツクのヴィーナス」の異名をもつ。

マッコウクジラの歯で作られた牙製女性像(前)。北海道立北方民族博物館所蔵
(後ろ)
オホーツク文化の造形が並ぶコーナー。

北海道立北方民族博物館の学芸主幹、笹倉いる美(ささくら いるみ)さんはこう語る。「歯(牙)は硬いので彫るのも難しいと思いますが、とても素敵ですよね。襟や襞(ひだ)、くびれが表現され、背中に枠のようなものも見えます。この服は何でできているのかと思いますか。布を織ることは考えづらいので、動物の皮革かなと。そうすると皮をなめすなどの関連技術もあったのだろうと考えたり、背中のラインはシャマンという霊能者が着ける胴衣(どうい)かもしれないと思ったり」。

「自由な発想でオホーツク人を思っていただけたら」と語る笹倉さん。

さらに笹倉さんは、クマについての造形表現がバリエーション豊かなことから、オホーツク人のクマに対する特別な思いが読み取れるともいう。「オホーツク人が残した造形をいろいろな角度から比較検討するには、幅広い知識が必要です。そういう意味でオホーツク文化はまだまだ研究の余地の大きい分野だと思います」。

クマ像。北海道立北方民族博物館所蔵
クマ像。北海道立北方民族博物館所蔵

そのためには博物館が収蔵品のデジタル化と公開をいっそう進め、研究者の横のつながりをより活発に、しなやかにしていくことが大事だと笹倉さんは考えている。

つながる地域

しなやかで活発なつながり。それを象徴する講演会が、令和7年(2025)12月7日、網走市で開かれた。題して「根室のオホーツク文化研究とモヨロ貝塚」。超満員の会場に登壇したのは根室市歴史と自然の資料館 学芸員の猪熊樹人(いのくま しげと)さんだ。猪熊さんの講演によると、根室と網走のオホーツク文化についての研究は、なんと約100年も前からつながっていたという。

モヨロ貝塚発見者の米村喜男衛を、何度も訪ねた人物がいた。それは根室市弁天島(べんてんじま)で昭和6年(1931)に「捕鯨彫刻図針入(ほげいちょうこくずはりいれ)」を発見した北構保男(きたかまえ やすお)だ。オホーツク文化の扉を開いた米村に、自分の発見への教えを乞いに来たのだろう。米村は13歳の北構をモヨロ貝塚の発掘にも参加させた。「考古学に関心のある人には分け隔てなく指導にあたられたことからもわかるように、情熱のある方ではなかったかと推察します」と、網走市立郷土博物館の梅田さんは言う。

さらに北構は、モヨロ貝塚の調査を終えて網走から根室へ帰る際に、釧網線の列車内で國學院(こくがくいん)大學の大学院生に出会った。これがきっかけになって、國學院大學に進み、卒業後は地元根室で印刷会社を営みながら、オホーツク文化研究に貢献した。米村と北構、ともに在野の偉大な研究者は、後年、共著で牙製女性像についての論文を著したのだった。

地域がつながり合って地元の遺産を磨き上げる。それが普遍の価値をもって輝きはじめる。米村と北構はもちろんのこと、根室の猪熊学芸員の講演を熱心に聞く網走の人々も、そんなつながりの象徴に思えた。

講演会のチラシを手に語り合う網走市立郷土博物館 学芸員の梅田さん(左)と、根室市歴史と自然の資料館 学芸員の猪熊さん。学芸員同士のつながりが探究を深めていく。

宝物に触れた思いで札幌に帰るべく網走駅に戻ると、オホーツク人が駅頭で迎えてくれた。「モヨロ人漁労の像」となって、銛(もり)で獲物を突こうとしている。生きるためにこうして日々格闘しながらも、愛と祈り、自然への畏怖を形に残したオホーツク人。その遺産を守り、探究を続ける地域が、輝いて見えた。

網走駅前の「モヨロ人漁労の像」。

Information

北海道立北方民族博物館

住所網走市字潮見309-1 
Google Map
電話番号0152-45-3888
開館時間9:30~16:30、7月~9月は9:00~17:00
休館日月曜(祝日の場合は翌平日休館)、年末年始 臨時休館あり
7~9月と2月は無休。
入館料一般550円、大学生・高校生200円
アクセス網走駅から運行する網走バス「観光施設めぐり線」で約15分。
関連リンクhttps://hoppohm.org/index2.htm

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

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