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  3. 古代オホーツク紀行 ――海の狩猟民が生んだ造形を求めて 【前編】
  • 北海道ヒストリア

2026.01.05
  • 古代
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  • 網走市立郷土博物館
  • 網走市

古代オホーツク紀行
――海の狩猟民が生んだ造形を求めて 【前編】

奈良・東大寺の大仏が開眼した頃、北海道のオホーツク海沿岸では、
謎に満ちたオホーツク文化が花開いていた。
オホーツク文化を担ったオホーツク人は、海の狩猟民だ。
大陸からサハリンを経て北海道に来たとされ、その道すじは流氷の南下と重なる。
オホーツク人が残した造形は、シンプルにして本質をつかんでおり、
動物像からは狩猟民ならではの鋭い観察眼もうかがえる。
生命感あふれる造形を訪ねて、網走、斜里を旅した。

文:北室かず子/写真:田渕立幸

道内最古の博物館建築に抱かれて

水中から顔を出してあたりをうかがっているように見えるのは、アシカだろうか、オットセイだろうか。クマは今にも動き出しそうだ。いずれも約1,200年前のオホーツク文化の遺物で、網走市立郷土博物館で見ることができる。

オホーツク人とは、5~9世紀に北海道のオホーツク海沿岸に住んでいた人々だ。アザラシなど海獣の猟に秀でており、牙や骨を材料にして動物たちのいきいきとした姿を彫り上げた。狩猟民ならではの鋭い観察眼が生み出した造形は、見れば見るほど吸い込まれそうになる生命感があふれている。

牙製(がせい)海獣像と牙製クマ像。湧別町川西遺跡出土。網走市立郷土博物館所蔵
牙製クマ像。網走市立郷土博物館所蔵
牙製クマ像。網走市立郷土博物館所蔵
牙製クマ像。網走市立郷土博物館所蔵

網走市立郷土博物館の学芸員、梅田広大(うめだ こうだい)さんはこう語る。「日本におけるオホーツク文化の存在が明らかになったのは、モヨロ貝塚の発見によります。発見者の米村喜男衛(よねむら きおえ)氏は、青森県出身のアマチュア考古学者で、大正2年(1913)、アイヌ民族を研究するために網走を訪れ、モヨロ貝塚を発見しました」。理容師の資格を持っていた米村は、網走で理髪店を開業して生計を立てながら、遺跡を守り、調査研究に尽力した。

米村が収集した考古・民族資料約3,000点の寄贈を受けて、網走市立郷土博物館は昭和11年(1936)に開館した。モダンでりりしい、道内最古の博物館建築で、中にいるだけで上質な時の流れに包まれるようだ。設計者は田上義也(たのうえ よしや)。帝国ホテルの設計で知られるフランク・ロイド・ライトに師事し、北海道内に珠玉の建物を残している。

「北の文化の灯台」を意識したというドーム屋根を持つ網走市立郷土博物館。国の登録有形文化財でもある。
ステンドグラスを透過した光が室内を彩る。塔屋に上るらせん階段も情感たっぷり。
建築当時の展示ケースやビロード張りの椅子も味わい深い。

オホーツク人は、現在のロシア極東からサハリン経由で南下し、北海道のオホーツク海沿岸に至った。それは、広大な海を一夜で白く閉ざす流氷と同じ経路だ。流氷は、ロシア極東のアムール川がオホーツク海に流れ込むことで生成され、オホーツク海を南下してくるからだ。

アムール川の淡水がオホーツク海の上層に塩分濃度の薄い層をつくると、濃い層と交わらなくなるため、オホーツク海は上層だけで対流を繰り返していく。本来の深さでは凍らないオホーツク海だが、あたかも浅い海のようになることで海水がより冷やされ、凍っていくのだ。オホーツク海の流氷は、アムール川なしには生成しない。

網走市沿岸に到達した流氷。流氷観光砕氷船「おーろら」(写真中央)で壮大なる流氷が体感できる。写真提供=(一社)網走市観光協会

流氷によって海は豊かになる。その仕組みは次の通りだ。海水が凍る時に吐き出される高濃度の塩水(ブラインという)が海底深く沈むと、代わりに海底付近に沈んでいた栄養塩が浮かび上がってくる。すると栄養塩を摂取した植物プランクトンが増殖し、食物連鎖によって動物プランクトン、魚類、海獣が増えていく。オホーツク人は、流氷がもたらす豊かな海を食卓としていたのである。

モヨロ貝塚が伝える謎

網走市立郷土博物館の分館として建てられたのが、モヨロ貝塚館だ。まさにモヨロ貝塚が発見された場所にある。

モヨロ貝塚館。手前は網走川の河口。厳冬期には氷で覆われる。

梅田さんいわく「貝塚は、後のアイヌ文化の『送り場』にも通じるもので、食べ物にかかわらず、土器や骨角器などの道具類など、すべてのものに宿る魂を送り、再生を願うような場所であったと考えられています」。

剥ぎ取りの技法で保存されたモヨロ貝塚。古代からのタイムカプセルでもある。モヨロ貝塚館所蔵

モヨロ貝塚館の館内は、住居、墓、貝塚、交易などのテーマごとに展示され、古代オホーツクで営まれた暮らしが現代に迫ってくる。クマの足型を付けた土器や動物の像など、ユニークな造形が目白押しである。「動物を神として扱う動物信仰が見てとれます。土製品や牙製品、彫刻、スタンプのように造形されたものは、儀礼的な道具として作られ、用いられることが多かったとされています」と梅田さんは言う。

モヨロ貝塚館入口で来館者を迎えてくれる、オホーツク文化のクマの像。モヨロ貝塚館所蔵
スタンプを押す要領でクマの足型が付けられた土器。モヨロ貝塚館所蔵

展示室として復元された竪穴住居は「北の海の民、山の神と暮らす」と名付けられている。いったいどういう意味なのか。

小さな入り口から身を屈めて復元住居に入ると、中は驚くほど広く、部屋の奥にヒグマの骨が並べられた骨塚が設けられていた。「クマを神聖視する習慣は実は縄文時代からありますが、骨そのものを祀(まつ)るのはオホーツク文化特有のものです。オホーツク文化のクマ信仰が、後のアイヌ文化に大きな影響を与えたとされています」と梅田さんが教えてくれた。

そして「北の海の民、山の神と暮らす」の意味をこう語る。「オホーツク文化の人々は、海と密接な関わりを持つ一方、家の中には陸の生態系の頂点に立つヒグマを神として祀り、数多くのクマの意匠も残しています。当館では、そうした対比的な面に着目して名付けました」。なるほど、それで「海の民」が「山の神」と暮らすというわけだ。

モヨロ貝塚館の展示室として復元された竪穴住居。
骨塚の頭骨。

墓の展示室に復元された、オホーツク人独特の埋葬方法にも驚いた。人骨の頭に甕型(かめがた)土器が被せられているのだ。その理由はわからない。けれども謎を超えて、死者を弔う思いの深さだけは静かに伝わってきた。

オホーツク人が作ったオホーツク土器は、粘土紐(ねんどひも)を貼り付けた文様が特徴だ。同じ頃、道央圏を中心に各地で、表面を木のへらで擦(こす)って刷毛目(はけめ)の文様をつけた土器が使われるようになった。これが擦文(さつもん)土器で、その文化は擦文文化と呼ばれている。

オホーツク文化と擦文文化の間に出現したのが、トビニタイ文化だ。その土器は、文様がオホーツク土器に、形は擦文土器に近い。「トビニタイ」は土器が発見された羅臼町飛仁帯(とびにたい)の地名に由来する。そのトビニタイ文化の入り口にあたる時期の遺跡が、斜里町のチャシコツ岬上(みさきうえ)遺跡である。

この地形が実にユニークだ。【中編】では、謎に満ちたチャシコツ岬上遺跡について深掘りしてみよう。

Information

網走市立郷土博物館

住所網走市桂町1丁目1-3
Google Map
電話番号0152-43-3090
開館時間9:00~17:00(11月~4月は16:00まで)
休館日月曜・祝日、年末年始(12月29日~1月3日)
入館料一般120円、小中学生60円
アクセス網走駅から徒歩約25分。予約制の網走どこでもおでかけバス「どこバス」あり。どこバスコールセンター電話番号0152-67-5611
関連リンクhttps://www.city.abashiri.hokkaido.jp/site/kyodo/

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

Information

網走市立郷土博物館分館 モヨロ貝塚館

住所網走市北1条東2丁目
Google Map
電話番号0152-43-2608
開館時間9:00~17:00(11月~4月は16:00まで)
休館日月曜・祝日、年末年始(12月29日~1月3日)
4月~5月のGWは開館、7~9月は無休
入館料一般300円、高校生・大学生200円、小中学生100円
アクセス網走駅より徒歩約25分。予約制の網走どこでもおでかけバス「どこバス」あり。どこバスコールセンター電話番号0152-67-5611
関連リンクhttp://www.moyoro.jp/

※情報は取材時のものです。最新情報は各公式サイト等をご確認ください。

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