
ホテルローヤル
桜木紫乃(著)|集英社
釧路湿原を望むホテルをめぐる、7つの物語
連載第1回目の旅は、私の出身地・釧路市からスタート。夏の平均気温が低く、近年では避暑地としても注目されています。札幌に住んでいる今でも、時間があれば特急「おおぞら」で釧路に帰り、地元民に長年愛されているソウルフード・熱々鉄板にスパゲティとトンカツが乗った「スパカツ」やサンマと炊き込みご飯を組み合わせた釧路発祥の郷土料理「さんまんま」を食べたくなります。
今回ご紹介するのは、第149回直木賞受賞作『ホテルローヤル』。日本最大の湿地・釧路湿原の高台にあるラブホテルが舞台です。このホテルは実在しており、2012年まで著者の桜木紫乃さんのお父様が経営していました。そのホテルを軸に置いた7編の連作短編集です。第1章は廃墟になってしまったホテルローヤルからはじまり、物語は時系列を遡るように進んでいきます。
各話でスポットライトが当たる人物が独特で、厳しい環境で懸命に生きる姿がリアルかつ繊細に表現されています。読み進めるうちに、「寂しい」「悲しい」「苦しい」といった感情がどんどん読み手の心に入ってきますが、人の「優しさ」や「温もり」も同じくらいか、それ以上に感じることができます。葛藤や不安だらけの人生をフラフラと彷徨い続けて出会ういろんな人。みんなどこかで折り合いをつけて、精一杯前向きに生きようとする中で徐々に交わっていく7つの物語。そんな人々の姿を、時代とともに風化していくホテルローヤルと、3000年以上もほとんど変わらない釧路湿原がそっと見守っている……そんな情景が思い浮かびました。
筆者

小笠原 光
#三省堂書店 札幌店
1983年生まれ、釧路市出身。就職や異動などをきっかけに釧路(道東)-旭川(道北)-札幌(道央)と、北海道を東から西へ旅をしてきた。長年にわたって接客業に携わる中、「興味のなかった分野に身を置いたらどうなるか」という好奇心から書店員の道へ。読書が特別好きだったわけではないが、今はどっぷりとハマっている。好きな絵本は「パンどろぼう」シリーズ。店舗では専門書の売場を担当している。
三省堂書店 札幌店
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