

2026.02.26
SDGs※10時代のフロントランナー北海道大学と、JR北海道の対話は続きます。
森や海、農場で最先端技術がどう活かされているのか。環境にやさしい鉄道旅の真価とは。お二人の体験談も交えながら、持続可能な明日への道筋を照らします。
PROFILE

横田 篤(よこたあつし)さん
北海道大学 理事・副学長、最高サステイナビリティ責任者
1984年
北海道大学大学院農学研究科博士課程修了(農学博士)
味の素株式会社中央研究所勤務
1989年
北海道大学農学部助手
1992年
北海道大学農学部助教授
1996年
オランダ王国フローニンゲン大学留学(1997年まで)
2000年
北海道大学大学院農学研究科教授
2015年
北海道大学大学院農学研究院長・大学院農学院長・農学部長(2019年まで)
2020年
北海道大学理事・副学長(国際、SDGs担当)
2023年
北海道大学理事・副学長(財務、SDGs担当)
2024年
北海道大学理事・副学長(最高サステイナビリティ責任者)、サステイナビリティ推進機構長
現在に至る。
PROFILE

山田 浩司(やまだこうじ)さん
JR北海道 取締役・総合企画本部副本部長
1993年
北海道大学大学院工学研究科修了
北海道旅客鉄道株式会社入社
2000年
鉄道事業本部 工務部 設備課 主席
総合企画本部 経営企画部 主席
2002年
総合企画本部 経営企画部 主査
2006年
総合企画本部 経営企画部 主幹
2015年
広報部長
2018年
総合企画本部 経営企画部 専任部長
総合企画本部 経営企画部長
2020年
執行役員 釧路支社長
2022年
執行役員 総合企画本部 副本部長 兼 総合企画本部 新幹線計画部長
2023年
執行役員 総合企画本部 副本部長
2024年
取締役 総合企画本部 副本部長
現在に至る。
Index
北大の「知」を地域の「力」へ
——
北海道のフィールド(現場)で培われた科学が北海道大学の強みであるとお聞かせいただきました。社会実装されている最先端の研究や技術について教えてください。
横田:
今、企業のカーボン・オフセット※11が急速に普及・拡大しています。そうした中、森林や海洋という自然資本の価値が見直されています。森林はCO2を吸収し蓄積していますが、実はこれまで、その量を正確に、かつ広範囲に見積もることが難しかったのです。
北大の研究グループは、東京大学、米国ジョージメイスン大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携し、国内のどの森林にどれだけのCO2を蓄積しているかを高解像度で地図化する森林炭素蓄積量マップの作成技術を開発しました。全国の自治体が航空観測した詳細な地上データと衛星データ、そしてAIを組み合わせることで、広域の炭素蓄積量を正確に把握することができるようになったのです。この地図データは、JAXAのウェブサイトで公開されています。

山田:
CO2の蓄積量を地図上に色で示しているのですね。
横田:
はい。10メートル四方という細かい単位で把握できます。この測定データは、信頼性の高いカーボン・クレジット※12創出に不可欠であり、温室効果ガス削減目標の設定など国や自治体の政策決定や、林業においては効率的な森林管理に役立てることができます。
——
精密かつ汎用性が高い、小規模な森林所有者や国まで、多くの主体が活用できるデータですね。
横田:
次は海の話ですが、北大の臨海実験所では、海草のアマモの藻場(もば)を水中ドローンなど様々な手法で観測しています。アマモ場は 「海のゆりかご」と呼ばれ、CO2を吸収・貯留する能力や多様な生物のすみかとしての働きが世界的に注目されています。
北大の研究グループは、能取湖のアマモ場とホッカイエビの関係を解析し、アマモ場の生態系サービスの一つである供給サービス※13を定量化(空間的・経済的評価)することに成功しました。この研究は、漁業効率の向上のみならず、アマモ場の保全と持続的な漁業の発展に貢献していくものです。
持続可能な農業で地域の魅力をUP
——
北海道の「食」を守る、農業分野での取り組みもぜひ教えてください。
横田:
北大では現在、文部科学省の大型研究予算を獲得し、「持続可能な食料生産システム」の構築に向けて様々な研究を進めています。これは札幌農学校時代から積み重ねてきた実学の現代版とも言えるのですが、わかりやすく言うと、環境を破壊せずに、むしろ環境を良くしながら、安定的な食料生産を行っていく取り組み、すなわち「環境再生型食料生産システムの開発」です。たとえば、酪農や畜産に放牧を取り入れることで土壌を豊かにし、同時に質の高い食肉や牛乳を生産する。耕作では、スマート農業により肥料や農薬の使用量を減らし、生産効率の向上を図ると同時に、脱炭素型の農業生産技術を開発する。これにより農作物の品質を高め、所得を向上させ、省力化も実現できます。このことは後継者の確保にもつながり、地域をより元気にするでしょう。この実現には自治体や生産者との連携が不可欠です。実際に過疎地域や耕作放棄地などで、本学の知見を社会実装する取り組みが始まっています。こうした流れは、地域の魅力を向上させ、JRの地方路線の収益改善にも貢献できると考えられます。
本学のGX※2研究は、工場などから排出されたCO2を地中に埋める技術、水素エネルギーといった工学的なアプローチも強みですが、同時に、森や海といった自然の力を最大限に活かす研究を進めています。この多角的な取り組みが北大の特色です。カーボンニュートラル※1へはまだ長い道のりがありますが、フィールド(現場)で培った研究成果は着実に社会実装され、様々な地域課題の解決に貢献しています。
地域をつなぐ 鉄道という「未来路」
——
鉄道は、環境負荷の低い移動手段であることをお聞かせいただきました。これからの北海道において、JR北海道は、どんな存在でありたいとお考えですか。
山田:
JRは、生活に欠かせないインフラです。この重要な役割をしっかりと果たしてまいります。観光という点では、北海道を訪れるお客様が求めるものは、やはり雄大な自然とその恵み「食」でしょう。この素晴らしい環境が損なわれることのないよう、道内の移動には、ぜひJRをご利用いただきたいと考えています。鉄道の利用が環境保全につながるということを、より多くの皆様に知っていただくための工夫や努力を続けてまいります。
また、これは交通全体で考えていくべき課題ですが、JRで目的地に着いても、その先の移動手段がなければ不便です。お客様が安心して旅を満喫できるよう、目的地までシームレスにつながる快適な移動の実現を目指していきます。
横田:
一人ひとりの意識や行動変容も大切ですね。北大では今、温室効果ガス排出量削減に向けたロードマップとアクションプランを練っていますが、出張などの移動についても様々な意見が出ています。私たちはつい目先の“利便性”を求めてしまいがちです。

山田:
本当にそうですね。北海道は高速道路の整備も進んでいて、車はやはり便利です。だからこそ、列車の旅の魅力、その価値というものをどう伝えていくかが重要だと思います。
横田:
鉄道好きの「鉄っちゃん」として言わせていただくと、北海道のような長距離の運転はとにかく疲れます。集中しなければならないし、脇見なんてできない。車での移動は、予定通りに目的地に行くというタスクです。鉄道は、ゆったりと移動そのものを楽しむことができる。車窓に広がる景色を眺めたり、お酒も飲めたり。
山田:
釧路支社にいた頃、よく特急「おおぞら」に乗りました。降りるときに、グループ客の方々が「おしゃべりしているうちにあっという間に着いたね」と話されていたことがありました。札幌からだと4時間ちょっとの旅ですが。

——
たとえるなら車にはオンデマンドの便利さが、列車にはシアターで楽しむ映画のような没入感とエンタメ性がありますね。
横田:
自然との一体感が醍醐味の観光列車は、すぐに満席になるほど大人気ですね。ぜひ魅力ある列車をたくさん走らせてほしいと思います。海外から来る方々も喜ばれるでしょう。

山田:
はい。たとえばヨーロッパでは、鉄道の重要性が見直されています。新しい鉄道路線が建設されていますし、環境に対する人々の意識も高い。旅行に鉄道などの公共交通を選ばれる方が多くいらっしゃいます。
横田:
移動手段をどう選ぶかですが、今は乗換案内アプリで経路を検索すると、移動にかかるCO2排出量が表示されます。こうしたツールも何かヒントになるのかもしれません。鉄道の価値は、これからますます上がっていくと思います。
山田:
ありがとうございます。鉄道愛を感じました。
「グリーン人材」を育てる
——
社会変革を推し進めるには、未来を担う「人づくり」が不可欠です。北海道大学にはどんな学びがあり、どのような学生を育てているのでしょう。
横田:
本学では、リベラルアーツ※14を土台に、専門知識と俯瞰的な視野を持ち社会変革をリードしていく「グリーン人材」を育成しています。そのために、全学生を対象とした共通科目として、サステイナビリティやGXの基礎を学ぶ機会を提供しています。また、本学のカリキュラムは座学に留まらず、フィールド(現場)を最大限に活用する点が大きな特徴です。研究林や自治体を舞台としたフィールドワーク、企業と連携したワークショップなど、多彩な現場体験を通して、学生は課題解決能力を磨いていきます。
中でも北大らしいのが、南紀熊野の和歌山研究林で行うアウトドア型のアクティブ・ラーニング※15です。学生が現地に赴き、研究林で林業作業や生物多様性の調査などを体験。また、地元の限界集落を目の当たりにし、地域の課題について学びます。重視しているのは、バーチャルではない、本物の自然に触れてもらうことです。環境問題や地域で起きていることに直に向き合い、学びを深めていきます。

旅のはじまりに 学びと共生の杜へ
横田:
環境省の「自然共生サイト」※16に認定されている札幌キャンパスは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全していくことを目指す国際目標「30by30」※17の達成にも貢献しています。

横田:
生物多様性が息づく豊かな森や水辺を抱くキャンパスが、JR札幌駅から徒歩圏という都心にある。訪れる市民や旅行客は、自由に散策し、本物の自然に触れることができます。この実体験こそが、次世代を担う子どもたちや学生はもちろん、私たち大人にも、自然環境と向き合うマインドセットを促すのではないでしょうか。
実は、私が北大の農学部に進んだ背景にも「環境」があります。小学3年まで父親が勤めていた森を研究する国立研究機関の官舎で過ごし、場所は現在の札幌市豊平区でしたが、緑豊かな森の中を毎日探検しながら育ちました。
山田:
そうでしたか。
横田:
自然は様々なことを教えてくれます。北大のユニークな環境は、札幌という都市の資産であり、北大の学びそのものを象徴しています。このキャンパスで過ごす時間は、未来を旅する皆さんにとって大切な軸になっていくと思います。
山田:
私は、大学卒業前にヨーロッパを鉄道で旅したのですが、列車に揺られながら圧倒的な自然を目の当たりにして、「この豊かな体験こそ、北海道で」と考えたことを覚えています。この旅の経験が、進路を決めるきっかけになりました。
私も学生時代をこのキャンパスで過ごしました。思い出深い、特別な場所です。札幌へいらっしゃる際は、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。様々な気づきや学びがあるはずです。
——
たいへん興味深い有意義なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。様々な角度から地球と人、そして北海道というこの素晴らしい生命圏について考えさせられる貴重な機会となりました。
国立大学法人北海道大学 札幌キャンパス
2026年に創基150周年を迎える北海道大学は、12学部・21大学院等を擁する日本を代表する基幹総合大学です。約177ヘクタールを誇る広大な札幌キャンパスは、農場や研究林を内包しており、多様な動植物の生息地ともなっています。イチョウ並木やポプラ並木など象徴的なスポットに加え、カフェやレストラン、ショップも充実。豊かな自然と歴史的建造物が織りなす景観は美しく、訪れる人々を魅了します。

北海道大学創基150周年記念特設サイト

※1
カーボンニュートラル:CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡化させること。日本政府は2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目標に掲げている。
※2
GX(グリーントランスフォーメーション):Green Transformationの略。化石エネルギー中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー中心の構造に転換していく、経済社会システム全体の改革への取り組み。
※10
SDGs(持続可能な開発目標):Sustainable Development Goalsの略。2015年に国連によって採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴールと169のターゲットから構成される。
※11
カーボン・オフセット:自身で削減しきれない分のCO2の排出量を、他の場所で実現したCO2排出削減分で埋め合わせをすること。
※12
カーボン・クレジット:認証制度に基づき、温室効果ガスの削減量または吸収量をCO₂換算で定量化し、取引可能な形にしたものを指す。
※13
供給サービス:生態系が人類にもたらす利益のうち食料、燃料、木材など人間の生活に重要な資源を供給するサービス。
※14
リベラルアーツ:幅広い一般教養。
※15
アクティブ・ラーニング:学習者が受動的に講義を聞くだけでなく、能動的に学習過程に参加する学習方法。
※16
自然共生サイト:企業、団体・個人、自治体による様々な取り組みによって、本来の目的に関わらず生物多様性の保全が図られていると環境省が認定した区域。
※17
30by30:2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全するという、2022年に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」における2030年グローバルターゲットの1つ。