

アイヌ文化のことをもっともっと話したい!
本田優子と村木美幸の二人が、
その魅力を交代で執筆するソンコ(=お便り)形式のエッセイです。

本田優子(ほんだゆうこ)
金沢市生まれ。札幌大学教授。北大卒業後11年間平取町二風谷に住み、アイヌ語講師を務める。
村木美幸(むらきみゆき)
白老町生まれ。アイヌ民族文化財団副理事長。先住民族アイヌの一員として文化継承活動に努める。

167
今月のテーマ

モウㇽ
(女性の室内着・肌着)
本田優子(札幌大学教授)

アイヌの女性たちはかつて、モウㇽというワンピース型の衣服を室内着や肌着として着ていました。外出の際には、その上にアットゥㇱ(樹皮衣)などを重ね着したとのこと。モウㇽは時代が下がるとほとんどは木綿で作られたようですが、江戸時代の記録にはアザラシの皮のモウㇽが描かれています。でも、室内着にしてはあまりにボリュームがあるような…。それに比べて、シカ皮をなめして揉んだモウㇽはしなやかで着心地が良さそうです。
でも、その揉み皮ってどう作るかご存知?萱野茂(かやの しげる)先生によれば、脂気をとって乾燥させたシカの毛皮を、夏に1週間くらい屋外の便槽に漬けておき、それから山際に引っ張っていって、運んできた水できれいに洗うと、毛がすっかり抜け落ちた柔らかななめし皮になるのだそうです。川で直接洗わないのは、ウンチやオシッコを川に流すのは水の神様に対する不敬だとするアイヌの伝統的な考え方に基づいています。また、病魔などの悪い神は汚くて臭いものに近づかないと言われるので、便槽に漬けた皮を肌着にするのには魔除けの意味があるのかもしれません。実は、萱野先生ご自身も、この皮なめしに挑戦してみたけれど、なかなか便槽から取り出す勇気が無く、ずるずる日を延ばしてしまい、意を決して引っ張り上げたところ、結んだ縄だけが上がってきて毛皮は跡形もなく消えていたとのこと!なんとも衝撃的です。

ところで、アイヌの衣服は全般的に和服と似た形をしていますが、モウㇽは胸元を残して裾まで縫い合わせてしまうワンピース型です。襟元にはヌマッと呼ばれる小さな紐がつけられていて、胸元がはだけないように結びました。女の子たちは胸が膨らんでくる年頃になると、襟元を気にして自然にヌマッに手が伸びるようになり、アイヌ女性にとっては思春期の象徴とも言える特別思い入れのある紐なのだそうです。女性たちは、チㇱポという円筒型の針入れをヌマッから下げたり、針自体をヌマッに刺してその上を小さな木の筒で覆ったりしていました。
現在、アイヌ民族の日常でモウㇽを着ることはほとんどありませんが、ハレの場で華やかな民族衣装の下に身に付ける方々もいらっしゃいます。また、舞踊披露の際に裾がはだけてもいいように、スカート部分だけのモウㇽを履くことも多いようです。でも、かわいいアイヌ文様を刺繍したホームウエアとしての復活もおおいにアリだと私は思っています。

