

アイヌ文化のことをもっともっと話したい!
本田優子と村木美幸の二人が、
その魅力を交代で執筆するソンコ(=お便り)形式のエッセイです。

本田優子(ほんだゆうこ)
金沢市生まれ。札幌大学教授。北大卒業後11年間平取町二風谷に住み、アイヌ語講師を務める。
村木美幸(むらきみゆき)
白老町生まれ。アイヌ民族文化財団副理事長。先住民族アイヌの一員として文化継承活動に努める。

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今月のテーマ

ヤオㇱケㇷ゚ カムイ(クモ)
村木美幸(アイヌ民族文化財団副理事長)

クモは糸を使って巣をつくることから、ヤオㇱケㇷ゚(網・編む・もの)やヤッテㇷ゚(網・仕掛ける・もの)、ヤコㇿカムイ(網・持つ・神)、ヤカラキキリ(網・つくる・虫)のように巣を網に見立てた名前で呼ばれることが多いのですが、クモが皆、巣をつくるというわけではないので、物語などに登場するクモの中にはトゥㇱエリキンクㇽ(綱で登る神)やカエリキンクㇽ(糸で登る神)と垂らした糸を登る様子がそのままクモ神の名前として登場することもあります。クモはお腹の先から出す糸を使って獲物を捕ったり、糸を垂らして風にのって移動したり、卵を包むなど用途に応じていくつもの種類の糸を使い分けるとのこと。科学的にもクモの糸は強靭で柔軟性や耐熱性にも優れた繊維として注目されています。すごいですよね。
クモは、その見た目や動きなどから好き嫌いが分かれる生き物でもありますよね。私はクモもクモの巣も苦手ですが、クモがカムイ(神)だと静内のフッチ(お婆さん)に教えてもらってからは少し見方が変わりました。もう三十年以上前になりますが、そのフッチにサケ皮を使った靴作りを教えてもらっている最中、目の間にクモが表れたので、びっくりして叩こうとしたら「…叩くんでない、なんだって(ヤオㇱケㇷ゚だって)用事あって歩くもの。ヤオㇱケㇷ゚は一番偉いんだから、網で悪い奴を押さえるもの。だからフッチ達、ヤオㇱケㇷ゚カムイって言ってた…」と聞かされてからはクモを殺さず逃がすことに…。クモは網を張り、その場所を守って悪いものをつかまえる力の強いカムイだといわれます。幌別ではクモが巣をつくると天気が良くなるといい、十勝では「朝、肩の上や頭に白く小さいクモが上がると…山に狩りに行っても必ず良い獲物を授かるし、川に行っても大漁に恵まれる…」と伝えられる他、いたずらや悪さをして懲らしめられる話などいろいろな物語が伝えられています。

アイヌ民族文化財団のホームページのアイヌ語ポータルサイト「オルㇱペスウォㇷ゚(お話の箱)」でもクモのお話を視聴することができます。帯広に伝わるオイナ(神謡)で「…一つの手には マキひろいをさせ 一つの手には 水くみをさせ 一つの手では 針仕事をし 一つの手では 料理をしながら 暮らしていました ある日…」とたくさんの手を持つ女神が網(=クモの巣)を使って悪いものを退治するという内容。「オルㇱペスウォㇷ゚」は、様々なジャンルのお話をアニメーションとアイヌ語や日本語で聞くことができ、字幕もアイヌ語や日本語の他、英語、韓国語、中国語の繁体字、簡体字で紹介しています。アイヌの物語世界についても子供から大人まで楽しめるお薦めのサイトですので、一度覗いてみてください。

