

2025.12.25
いつもの鉄道旅が、北海道の未来につながっているとしたら──。
JR北海道と北海道大学が、鉄道旅の魅力と、脱炭素時代の北の大地の可能性について語り合いました。あくなき挑戦と次世代へ向けられたあたたかなまなざし。その対話の模様を前後編でお届けします。
PROFILE

横田 篤(よこたあつし)さん
北海道大学 理事・副学長、最高サステイナビリティ責任者
1984年
北海道大学大学院農学研究科博士課程修了(農学博士)
味の素株式会社中央研究所勤務
1989年
北海道大学農学部助手
1992年
北海道大学農学部助教授
1996年
オランダ王国フローニンゲン大学留学(1997年まで)
2000年
北海道大学大学院農学研究科教授
2015年
北海道大学大学院農学研究院長・農学院長・農学部長(2019年まで)
2020年
北海道大学理事・副学長(国際、SDGs担当)
2023年
北海道大学理事・副学長(財務、SDGs担当)
2024年
北海道大学理事・副学長(最高サステイナビリティ責任者)、サステイナビリティ推進機構長
現在に至る。
PROFILE

山田 浩司(やまだこうじ)さん
JR北海道 取締役・総合企画本部副本部長
1993年
北海道大学大学院工学研究科修了
北海道旅客鉄道株式会社入社
2000年
鉄道事業本部 工務部 設備課 主席
総合企画本部 経営企画部 主席
2002年
総合企画本部 経営企画部 主査
2006年
総合企画本部 経営企画部 主幹
2015年
広報部長
2018年
総合企画本部 経営企画部 専任部長
総合企画本部 経営企画部長
2020年
執行役員 釧路支社長
2022年
執行役員 総合企画本部 副本部長 兼 総合企画本部 新幹線計画部長
2023年
執行役員 総合企画本部 副本部長
2024年
取締役 総合企画本部 副本部長
現在に至る。
Index
- 記録的な酷暑に見舞われた2025年
- 全国に先駆けGHG排出量を「見える化」
- 鉄道は環境負荷の低い輸送モード
- 寒冷地の課題をテクノロジーで超えていく
- 総延長800km「鉄道林」の緑は続く
- サステイナビリティの原点は札幌農学校
- 「THEインパクトランキング」6年連続国内1位
記録的な酷暑に見舞われた2025年
山田:
今年は北海道も記録的な暑さで、気候が明らかに変わってきているのを肌で感じました。局地的な豪雨や線状降水帯が発生し、当社も列車を運休せざるを得ない状況となり、たいへんご迷惑をおかけしました。気候は鉄道運行にとても重要な要素で、生活する方々への影響も大きい。地球温暖化対策の重要性をあらためて考えさせられています。
横田:
私は鉄道好きで、旅は「鉄道をメインに公共交通で」というモットーです。ですから局地的な豪雨が相次いで、線路の路盤が流されたという事態には驚かされました。気候変動の脅威をひしひしと感じたというのが今年一番の感想です。

——
気候変動対策が喫緊の課題となる中、カーボンニュートラル※1と経済成長を両立させるGX※2(グリーントランスフォーメーション)が推進されています。北海道大学ではどのようなことに取り組まれていますか。
横田:
「持続可能な Well-being 社会の実現」を使命とする本学は、2050年カーボンニュートラル実現に向けて具体的な活動を進めています。その直近の成果の一つが、昨年12月に公開した「北海道大学GHGインベントリ2022」です。
全国に先駆けGHG※3 排出量を「見える化」
横田:
これは、本学がどのくらいGHG(温室効果ガス)を排出しているのかを正確に把握するために、環境省のマニュアルのみならず国際基準であるGHGプロトコル※4に準拠し排出量を算定したレポートです。その画期的な点は、包括性と再現性だと考えています。パリ協定で定められた7種のGHG全てを網羅し、これまで把握していたスコープ1・スコープ2※5、つまり「直接排出」と電力使用等による「間接排出」のみならず、製品の調達や廃棄、構成員の移動など 「その他の間接排出」であるスコープ3※5まで算定範囲を拡大しました。海外オフィスを含む大学の全拠点を対象としており、活動量のデータ、排出量の計算式及び計算結果まで全てをウェブサイトで公開しています。


山田:
ひとつのデータベースとしてガラス張りにした。これは国内では北大だけでしょうか。
横田:
環境省が取りまとめる国家インベントリの他は、事業所単位でここまで透明性の高いインベントリを公開したのは北大が国内初で唯一です。GHG排出量算定の手順、いわば虎の巻みたいなものをお示ししたことになります。現在はこれをもとに目標達成へのロードマップと具体的なアクションプランを作成しているところです。
——
JR北海道はGXをどのように推し進め、脱炭素社会を実現していきますか。
山田:
JR北海道のCO2排出量は年間約30万トン、グループ全体で40万トンに上ります。これを当社も2050年までに実質ゼロにする計画を立てています。
横田:
北大のCO2排出量はスコープ1・2の合計で年間およそ10万トン弱※6です。JR北海道さんが、この3倍の30万トン。道内でたくさんの電車やディーゼル気動車が走っている割には、30万トンは意外と少ないのかなという印象です。
鉄道は環境負荷の低い輸送モード
山田:
そうですね。少し話は変わるのかもしれませんが、鉄道は、環境にやさしい乗り物と言われています。日本全体のCO2排出量は約10億トン、そのうち運輸部門は2億トンです。さらにその約85%が自動車からの排出で、鉄道は4%ほど。輸送量当たりのCO2排出量※7は自動車の7分の1ぐらいに抑えられています。人も荷物も効率良く大量に運べるという利点が鉄道にはあります。
JR北海道の話に戻りますが、当社の電化率※8は約20%と他社に比べて極めて低く、運行の主力はディーゼル気動車です。


横田:
つまりスコープ1、軽油の燃焼による直接排出の総量が多い。
山田:
はい。しかし、グループ全体の排出量40万トンの半分以上が、電力の使用による間接排出です。北海道には寒冷地特有の事情があります。線路には列車の進路を振り分ける分岐器があり、冬場はそこに雪が入り動作しなくなる。ヒーターで融雪するのですが、その電力消費量が大きい。列車も、冬に長距離を運行すると、車両の下が氷でガチガチに凍結してしまう。それを車両基地で蒸気を使って溶かしています。
寒冷地の課題をテクノロジーで超えていく
山田:
省エネルギーのためには様々な知恵や努力、技術が必要です。当社はこれまでも車両の軽量化や、より精密なモーター制御が可能な新車両の導入を進めてきました。また、ディーゼル気動車における環境負荷の低いバイオディーゼル燃料の活用など新技術の導入を検討しています。新技術の導入にあたっては、−20℃になる北海道の冬にどうなるのかという検証が必要になります。
横田:
燃料が固まってしまう可能性があるのですね。
山田:
そうです。粘性が変わって効率性が悪くなる。その検証が必要です。あとはやはり電力ですね。当社は大量の電力を使っている。この電力消費を脱炭素化するには、再生可能エネルギーの活用が不可欠です。幸い、北海道は太陽光や風力発電のポテンシャルが非常に高い。現在、PPA※9を通じて再生可能エネルギー由来の電力を調達する取り組みも進めています。将来的には水素を活用した車両の導入も検討していきます。

横田:
北大も冬場は特に燃料を使いますから、他の地域の大学と比べるとスコープ1の比率が高くなっています。
山田:
やはり寒冷地という共通のキーワードがありますね。
総延長800km「鉄道林」の緑は続く
——
カーボンニュートラルを推し進めるうえでは、CO2の吸収源である森林の保全といった観点も重要ですね。
山田:
はい。当社は冬の安全・安定輸送に欠かせない鉄道林を有しています。線路沿いに防災用に整備してきた人工林で、総面積は約4,700ヘクタール。このグリーンインフラを今後も大切に保全していきたいと考えています。

横田:
実は北大の研究林も一部が鉄路の防災に貢献しています。道北の音威子府村にある北大中川研究林(総面積19,364ヘクタール)は天塩川に沿って広がっていて、川沿いを走るJR宗谷本線の総延長およそ35kmの区間を、「土砂流出防備保安林」として土砂災害から守っています。

山田:
そうでしたか。それは知りませんでした。
横田:
北大は今年、グリーントランスフォーメーション先導研究センターを新設しましたが、ここに所属する先生たちの研究にグリーンバイオや再エネ、水素エネルギーもあります。JRさんと何か北海道にとって有益なコラボができそうですね。
サステイナビリティの原点は札幌農学校
——
北海道大学は国連のSDGs※10の枠組みで大学の社会貢献度を評価する「THEインパクトランキング」で高い評価を得られています。その理由をどのようにみていますか。
横田:
少し歴史の話になります。北大の起源、札幌農学校が開学したのは1876年。寒冷地における農業技術の開発と人材育成を趣旨として設立されました。当時の教育実践と初代教頭クラーク博士の「Boys, be ambitious!」が、北大の理念「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」の礎となりました。発展の歴史の中で、教育と研究のために付与された広大な国有地を付属農場や演習林として整備してきた北大は、自然豊かな札幌キャンパスをはじめ、世界でも最大規模となる7万ヘクタールの研究林や臨海実験所、練習船を有しています。広大な北海道で培ったフィールドサイエンスが本学の強みです。そして、今まさに地球課題の核心が、食料生産、気候変動、環境保全、生物多様性といった分野です。

北海道大学旧昆虫学及養蚕学校
「THEインパクトランキング」6年連続国内1位
横田:
イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education (THE)」が主催する「THEインパクトランキング2025」で、北大は参加した2,318大学中、総合ランキング世界44位、国内では6年連続となる1位を獲得しました。5つのSDG別ランキングでも国内1位、SDG2「飢餓をゼロに」では世界2位となるなど高い評価を得ています。このランキングは、SDGsへの貢献度を、研究、教育、スチュワードシップ(学生・教職員への貢献)、アウトリーチ(社会貢献活動)という4つの指標で多角的に評価するものです。各ゴールは100点満点でスコア化され、90点以上を獲得しなければこれほどの上位ランクは得られません。この結果は、北大が培ってきた理念と底力が、現代の世界的な価値観と合致し、研究だけではなく継続的な実践が評価されたものだと考えています。

山田:
たしかな理念のもと、この北海道で培われてきた実学が、社会へ還元されている。私も北大出身の一人として、本当に素晴らしいキャンパスで勉強することができたと感じています。
国立大学法人北海道大学 札幌キャンパス
2026年に創基150周年を迎える北海道大学は、12学部・21大学院等を擁する日本を代表する基幹総合大学です。約177ヘクタールを誇る広大な札幌キャンパスは、農場や研究林を内包しており、多様な動植物の生息地ともなっています。イチョウ並木やポプラ並木など象徴的なスポットに加え、カフェやレストラン、ショップも充実。豊かな自然と歴史的建造物が織りなす景観は美しく、訪れる人々を魅了します。

後編では、北海道大学の最新科学が地球に、地域にどう貢献しているのか、そして、脱炭素時代の鉄道旅の真価について深掘りします。
※1
カーボンニュートラル:CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡化させること。日本政府は2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目標に掲げている。
※2
GX(グリーントランスフォーメーション):Green Transformationの略。化石エネルギー中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー中心の構造に転換していく、経済社会システム全体の改革への取り組み。
※3
GHG:Greenhouse Gasの略。温室効果ガス
※4
GHGプロトコル:米国の環境シンクタンクである「世界資源研究所(WRI)」及び「持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)」を中心に世界中の事業者、行政組織、NGO、学術組織など様々な利害関係者が参加し、その合意に基づいてGHG の算定・報告基準を開発するためのプロセス。
※5
スコープ1・2・3:GHGプロトコルでは、GHG排出量を以下の3つのスコープ(Scope)に分類。
Scope1(直接排出量) 事業者自らの温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2(エネルギー起源間接排出量) 他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3(その他の間接排出量) Scope1、Scope2以外の間接排出(事業活動に関連する他者の排出)
※6
CO2排出量年間98,594トン:Scope1+2(2022年度)
※7
輸送量当たりのCO2排出量(旅客):ひとりの人が1km移動するときに排出されるCO2排出量。
※8
JR北海道の電化率:JR北海道が所有する鉄道路線のうち、架線から電気を供給して走る電車が走行できる区間の割合。
※9
PPA(電力購入契約):Power Purchase Agreementの略。再生可能エネルギー発電事業者と電力購入者との間で結ばれる長期的な電力売買契約。
※10
SDGs(持続可能な開発目標):Sustainable Development Goalsの略。2015年に国連によって採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴールと169のターゲットから構成される。